質の高いエンゲージメントを促す3つの質問

 これに着手するにあたって万能策は存在しないが、取締役会メンバーと上級経営責任者が戦略策定に取りかかる際に、3つの簡単な質問を自問することを提案する。これらを活用することで、エンゲージメントの質は高まり、それぞれのグループが目標地点に到達するために必要な、実行手順を定めやすくなるだろう。

 その効果をわかりやすく説明するため、冒頭で取り上げたインフラ会社に話を戻そう。

 同社には3つの主要事業部門――建設、セメント製造、そして(発電所を中心とした)インフラ事業の保有・運営ならびに、立ち上げたばかりの不動産事業がある。1990年代中盤から後半にかけ、同社は新興市場で積極的に拡大を図ったが、アジア通貨危機のせいで投機的な購入案件の一部売却を余儀なくされ、インフラ分野に長期的に関与している大型機関投資家による資本受入を進めた。

 投資家は新しい会長を任命し、この会長が新たなCEOを連れてきた。数年間の力強い成長と継続的な変化を(世界経済危機に中断されながら)経て、成長は水平面に入り、これが取締役会が戦略の徹底的な見直しを図る引き金になった。

 会長はこの件をCEOと協議し、経営陣とは異なるアプローチを採用する必要があるということで一致した。取締役会の一部は新参組であり、複雑な多国籍・多角経営企業の監督に苦戦していた。そのうえ、議題に挙がっているいくつかの根本的な問題は、事業部門のスピンオフ、または資本の再分配を含めた本格的な組織再編や変革につながる可能性があるように思われた。

 毎年行われる通常の戦略の更新によってでは、新たな知見を提示することはおろか、課題に十分に取り組むために必要となる、背景の正確な評価を取締役会に提供できない可能性が高かった。

 私たちの経験では、こうした取締役会における、年次の機械的な戦略策定プロセスへの不満は広まっている。同社(および私たちが知るその他複数)の取締役会の答えは、年1回のプロセスを破棄し、はるかに集中的ではあるが、頻度を抑えた方式のエンゲージメント――今回の場合はおよそ3年に1回――に置き換える一方で、毎回の取締役会では、重要指標の進捗と変化に照らした戦略のプレッシャーテストの実施に時間を割くことだった。

 このインフラ企業がやったように、下記の質問に答えるよう強く働きかけることは、強いエンゲージメントが必要なときにも、通常の事業運営においても、取締役会の戦略に対するエンゲージメントの質を高める助けになる。

 1. 取締役会は業界のダイナミクスを十分に理解しているか?

 ほとんどの取締役会は、戦略に割り振った時間の大半を計画の評価に費やしている。しかし、すでに指摘したように業界のダイナミクス、または該当する企業の価値創出の仕組みすらも全面的に理解しているという取締役は、比較的わずかである。

 この問題を解決し、そこから生じかねない表層的な対応を避けるため、取締役会には事業の構造や経済状況、ならびに価値創出の仕組みをよりしっかり把握できるようにする時間が――経営部門が出席しない時間も含め――必要である。戦略をめぐる議論でいつも一歩遅れている気分を味わったり、経営部門の偏よった考えや慣習的な思考を受け入れたりするより、取締役会はこの機会を使って問題に先回りをするべきだ。

 このインフラ会社の取締役会メンバーは、業績を研究し、経済サイクルの中でROICだけに着目することから始めた。次に取締役会は、ROICに影響するすべての価値創出要因(ドライバー)を詳細に検討した。売上成長率、そして金利・税金前利益は、経営部門が時間の大半を費やしている2つであり、重要ではあるが、会社の業績全体を部分的に説明する指標でしかなかった。個別会合とCEOとの正式な2回のディスカッションを組み合わせることで、取締役会は、戦略に関する経営部門との次なる対話に向けて、より強固な基盤を築いた。

 そこで判明したのは、たとえば、リース機器と保有機器に関する建設事業の想定に懸念を表明していた取締役は――その事業部門だけでなく、会社のオペレーションの大半にわたって――正しかったことだ。得られた知見の1つは、建設事業の将来リターンは、一見したよりも利幅がより大きく、企業認知度が高く、総合的に見て、大型なセメント事業よりも安定性が高いことだった。この知見から、取締役会は両事業部門をより詳細に検討し、建設事業におけるプロジェクト管理担当の有能な人員は「より扱いにくい」リスク特性に対処するのに適していると、十分に評価することができた。

 2. 具体的な戦略を話し合う前に、取締役会と経営部門は十分に討議を重ねたか?

 業界と会社の状況に関する明確な理解に支えられた、基本的な見解を背景として、取締役会が上級経営責任者と対話するうえでより優位な立ち位置を得ることで、最終的には検討に際し、もっと賢明で洗練された戦略的選択肢を用意できるようになる。取締役会のメンバーは、これらの議論にオーナーとしての心構えをもって、経営部門をサポートすることを目標に臨み、新しくかつ予想外ですらある視点も考慮に入れることで、考え方の幅を広げていくべきだ。

 例のインフラ企業において、こうした議論のきっかけをつくった会長は、次のように話した。「ここまでのところ、業界および会社の経済活動を査定するこのプロセスは、非常に勉強になっている。そこで思うのだが、いまここでプライベートエクィティがわが社を買収するなら、会社をどうするだろう?」

 この質問が破壊的であったのは、議論の枠組みを「この事業のために、さらにできることは何か」から「そもそも、この事業を行う必要はあるか」に変えたことである。そこから、セメント事業部門には一定水準の規模と競争力が必要だが、同社にはそれがなく、既存事業の活動では到達できない可能性が高いという認識に至った。そう気づいたことで、インフラ企業は最終的に、同事業のスピンオフに踏み切った。

 こうした討議において、経営部門の役割は内容のカギとなる部分、つまり同業他社の詳細な評価、事業に影響する可能性が高い社外の重要なトレンド、そして、差別化を図るために会社が活用できる個別のケイパビリティを提示することである。対話の目標は、会社がただトレンドに乗るだけでなく、強力なリターンを生み出すために活用できるスキルとリソースをよりしっかりと共有し、理解することにある[注4]

 しかし、重要な点は、こうした対話と戦略の決定の間には、少し間を置いたほうがよいということである。その点を次に述べる。

 3. 取締役会はすべての戦略の選択肢を協議し、結論を出したか?

 往々にして、事業と経済環境、そして競争状況に関する取締役会と経営部門の闊達な議論をもって、討論は終わりを迎える。その後、CEOと上層部は計画を策定し、続いて取締役会に提示して承認を求める。

 それよりも、この時点で必要なのは、経営部門がしばし時間を――その大半は単独で――取り、幅広い戦略的選択肢のリストを作成して、それぞれの選択肢での人員、資本、およびその他のリソースの配分に関して予想される結果を含め、論理的に考えうる帰結までの経過を検証してみることだ。

 次に、これらの戦略的選択肢を取締役会に改めてかけ、議論と意思決定を行えばよい。

 例のインフラ会社では、既存のオフサイト戦略会議を行う十分な時間を確保するために、2日間にわたり開催し、戦略的選択肢の討議と決定だけに集中して、諸決定に伴うリソースの配分にしっかり取り組んだ。

 さまざまな討議を重ねるなかで、2点が浮上した。1つは、最も将来性のある同社の事業――建設サービス――に倍賭けし、M&A主導の統合計画に向けて、2つの有望市場で追加の人材と資本の配分を行うか否か。もう1つは、不動産事業から撤退するか否か。それらの点に関して率直な意見交換を要請することは、取締役会と経営陣の双方の安心につながることが判明し、経営陣は、これらの問題がかなり長い間に渡って暗黙の不安の種であったことを認めた。

重要な留意点:このような意義のある、質の高い意見交換を要請することは容易ではない。取締役会が不慣れな場合はなおさらであり、議論を円滑に進める取締役会会長の技量が重要になる。参加型で協調的な関係をつくりながら、健全な緊張感をキープすることがきわめて重要だ。また、会長は議論を独占してもいけないし、有意義ではない脱線に対しては決然と介入し止めることを怠ってもならない。

 今回の場合、インフラ会社はオフサイト会議の最終日に若干の時間を取り、取締役会と経営部門がどのように実行状況をモニタリングするか協議した。これは、「いつまでに何をするか」に関する両者間の健全な議論につながった。さらに同社は、リソース配分について最終討議の時間を設け、意思決定から取り残される者がいないよう対応した。業界での経験がある取締役はCEOと過ごす時間をもち、既存手法への依存性、資本と人材の配分、そして長期的なトレンドに関する情報を提供した。

 業界と会社の経済状況をより明確に理解することは、取締役会が十分な情報に裏打ちされた対話を上級経営責任者と行うことを可能にし、最終的により賢明な選択肢を用意する助けになる。

 戦略的選択肢の議論を履行のモニタリングにまで広げることは強力な――そして異例の――進め方だった。通常、これは必要ない。しかし、経営幹部が取締役会とともに取り組むと決めた抜本的な改革と、彼らの時間を奪い取る日常業務の間で折り合いをつけるのがどれほど難しいかを、取締役会は見過ごすことがある。

 これは時として、オフサイト戦略会議の時期に意図せず起こる事態だ。年度末近くに開催されると、予算の承認期限前に計画を肉付けし、主要業績評価指標とのリンケージを創出する時間が十分に取れなくなる。

 戦略の策定はとかく複雑なものだが、取締役会のさらなる関与は、そこに拍車をかける。新たな意見と専門性を討議にもたらし、最善策を見つけるために、経営陣と取締役会メンバーの双方に圧力がかかる。

 それでも、こうした戦略策定の方式は、うまく実施すれば計り知れない価値がある。それは一層明確な戦略につながるだけでなく、自信を高めてさらに大胆な動きを取り、重要な決定にリソースを投入して完遂するために必要な調整を実現するのである。

[注1]関係者の名前は変更したが、この会話は実際の出来事からの引用である。
[注2]スティーブン・ホール(Stephan Hall)、ダン・ラバロ(Dan Lovallo)、レイニエ・マスターズ(Reinier Musters)、「戦略分野に資金を投入する方法(How to put your money where your strategy is)」、mckinsey.com、2012年3月参照。
[注3]クリス・ブラッドリー(Chris Bradley)、ローウェル・ブライアン(Lowell Bryan)、スベン・スミット(Sven Smit)、「戦略行程の管理(Managing the strategy journey)」、mckinsey.com、2012年7月。
[注4]市場に打ち勝てる戦略かどうかの判断は、取締役会が戦略のクオリティと強度を判定するために採用できる、重要な10項目テストの1つである。詳細は、クリス・ブラッドレー(Chris Bradley)、マーティン・ハート(Martin Hirt)、スベン・スミット(Sven Smit)による「最近、戦略の検査は行っているか?(Have you tested your strategy lately?)」、mckinsey.com、2011年1月を参照。
 

※本稿は、2013年2月のMcKinsey Quarterlyに掲載された記事を翻訳したものです。原文は下記よりご参照ください。

原文:https://www.mckinsey.com/business-functions/strategy-and-corporate-finance/our-insights/tapping-the-strategic-potential-of-boards

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