好転

 とはいえ2010年までには、有機ワインの人気はパリやニューヨークなど大都市の高級レストランで高まっていた。コペンハーゲンにある有名レストランのノーマは、有機ワインのみで構成したワインメニューを売りにした。

 既存の業界団体の一部は、有機ワインに対抗心を見せなくなった。スウェーデンでは、国営の酒類専売公社であるシステムボラーゲットが、店舗の目立つ場所に有機ワインを陳列し、販売本数を積極的に増やした。2011年に同公社で販売されたワインのうち有機ワインは6%だったのに対し、2016年には20%以上に増加したほどだ。

 いったい、何が変わったのか。有機ワインの味の「純度」、そして地域固有の製法の魅力が、強力なマーケティングツールであると証明され、状況の好転に一役買ったのだ。

 純粋なテロワールがあり、職人が手づくりしたワインを求める消費者と、できる限り添加物の少ない商品を摂取したいと考える消費者からの需要が増加した。ますますグローバル化が進む21世紀の世界において、有機ワインは前世紀の特色である「地方色豊かな場所・文化」の有力なシンボルとなったのである。

 20世紀末の有機食品ブームには乗り遅れたものの、21世紀初めの地域特産・職人技による食品と商品に対する熱狂の波には、うまく乗れたようだ。

 とりわけ、バイオダイナミックワインの品質は格別の評価を得ている。

 このワインは、特殊な製法で生産される。1920年代初めに論議を呼んだ、オーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナーがバイオダイナミック農法の原則を確立した。地球は宇宙の影響を受けているというシュタイナーの信念に基づき、種撒きなどの農作業を月や惑星といった天体の動きに調和させて行い、特別な堆肥の調合剤を土に混ぜ込み、植物に散布するというものだ。

 総じてバイオダイナミック農法は、1970年代までは完全にニッチだった。しかしその後、特に欧州で広がり、一部の実践者は大規模なビジネスを展開していく。たとえば、ドイツの自然食品販売会社アルナトューラなどもその1社だ。

 この手法が実際にどんな原理で奏功しているのかを知る者はいない。単にラベルを変える(それによって有機ワインの負のイメージを避ける)という話ではないようだ。

 一部のワイン専門家は「ブドウの木の生命力と健全さを高める農法だから」と言う。「この農法によるワイン生産はきわめて手が掛かるため、ブドウの木に細心の注意を払うことになるのが大きな強みだ」と信じる専門家もいる。ただ1つわかっているのは、世界で最も人気が高く、多数の賞を獲得している高級ワインがバイオダイナミックであることだ。

 新しい製品カテゴリーを創出することは容易ではない。共通の基準、合意された定義、明確な区分、認知的正当性を確立するには、議論を呼ぶプロセスが伴う。有機ワインの事例は、このプロセスに足を踏み入れる際に避けるべきことについて、重要な教訓を与えてくれる。

 まず重要なのは、悪評を払拭するのは困難なので、初期段階から品質を高めること。2つ目は、地域をまたいで販売される商品の場合、複数の相反する基準が生まれないように最大限の努力を払うこと。3つ目は、環境への優しさを謳うカテゴリーの場合、顧客は理屈のうえでは環境保護に協力的でも、その大義を支援するために品質面で妥協しないということだ。


HBR.ORG原文:How Organic Wine Finally Caught On, April 03, 2018.

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ジェフリー・ジョーンズ(Geoffrey Jones)
ハーバード・ビジネス・スクール、イジドー・ストラウス記念経営史講座教授。同校の経営史イニシアチブの責任者。

エミリー・グランジャン(Emily Grandjean)
ハーバード・ビジネス・スクール研究員。