働き手に愛される企業であるために

 自己実現を求めるWill志向の働き手の増加、そのなかで企業がEVに再度着目することの重要性、EVのとらえ方のポイントについて述べてきた。

 ではファーストステップとして何から始めるか。まずは、どのような形でもいいので、“年1回のエンゲージメントサーベイ(定型化された・世の中汎用的な指標に基づくもの)”以外の形で、EVについて自社の従業員や採用候補者と会話することだ。

 対従業員であれば、皆で集まってワークショップを開催する、席のシャッフルやコラボレーションスペース設置により幅広く従業員との接点をもつなど。対候補者であれば、「働くこと・働く場に何を求めるか」を選考時の共通の問いに設定する、グループディスカッションのケースでEVを取り上げてみるなど、すぐにでもトライできることはたくさんある。

 また最近では、Laboratik社のSmart bot A;(エー)のような、デジタル上の従業員同士の会話のやり取りや行動データを自動で収集・分析し、個々人の感情傾向を可視化できるソリューションも存在する。また、近い将来、AOI Pro.社のVR OATのような、生体反応データ(脳波・心電心拍・視線・体温・圧力)取得による感情解析も実用化されるだろう。こういった日々出現するデジタルソリューションに積極的にトライすることもお勧めだ。

 あらゆる形においても欠いてはならないことが2つある。1つ目は「能動的に従業員のリアルな声を引出しにいくこと」。積極的に発言する従業員や目立つ従業員の声のみを拾っていたのでは、“サイレント・マジョリティ”を見逃してしまう。また、20代だから、女性だからといったステレオタイプを持ち込むことなく、真っ新な目で、従業員の多様な価値観に耳を傾けることが重要だ。

 2つ目は「CO-CREATE(ともに創ること)」だ。EV含め、こういったピープルアナリティクスの推進のための専門部門設置の必要性を唱える人もいるが、限りなくデータドリブンで運営されない限り、ともすれば、経営陣に次ぐ“第2のCompany Centricな目”をつくってしまうことになりかねない。Employee Centricに取り組むためには、限りなくEmployeeが主体となる取り組み態勢を採り入れること。その意味ではプロジェクト型の態勢が適し、所属や役職を超えて従業員を参画させ、年度ごとなどに流動的にメンバーを入れ替えながら、経営と現場が一体となってさまざまな活動を展開していくCO-CREATEなスタイルが望ましい。専門部門を設置するとしても事務局機能や分析などのオペレーション機能に留めたほうがいい。

 どれも当たり前のことだと感じるかもしれない。対顧客には当たり前のようにやってきたことが、対従業員となると、身内のことだからか、雇って給料払ってやっているのは会社といった企業優位の姿勢のためか、当たり前にできていなかったのがこれまでであった。

 繰り返しになるが、これからの公式は「Customer Value(CV)+Employee Value(EV)=Competitive advantage」である。顧客マーケティングのようにHRのことを考え始めること。この小さな変化が、各社の未来のワークプレイスを一変させることにつながるだろう。

海津恵(かいづ めぐみ)                 アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 人材・組織戦略プラクティス シニア・マネジャー              慶應義塾大学経済学部卒業後、2006年にアクセンチュア入社。人材・組織変革が専門領域。様々な業界の企業変革に従事する傍ら、クライアントの人材・組織課題をより全面的に支援すべく立ち上がったアクセンチュア社内の部門横断組織 ”One T&O(Talent & Organization)” では、コアメンバーの一人として、オファリング開発や知見/論考の発信を推進。