1つカギとなるのは、最初に火をくべる人々が、こう認識することだ。自分たちはより大きなムーブメントの一部であり、みずからの価値のために個人的に活動しているのではなく、期待と行動を変えるために集団で取り組んでいるのだ、と。それが起きるのは多くの場合、本来ならば傍観者の立場を取る人々が、行動しないことこそ脅威であると気づき、運動に参加する気持ちになったときである。

 資産運用会社ブラックロックのCEOラリー・フィンクは、同社30周年を記念して世界のCEO宛に手紙を贈ったが、それが大きな称賛を得た理由の1つは、まさにこの点だ。手紙の中でフィンクは、アクティビスト(物言う投資家)が企業の長期的な可能性を顧みず、短期的に株価を吊り上げる戦略を推し進めることで脅威が増していると指摘している。

 企業の経営陣は、説得力のある長期戦略――「目的意識」に裏付けされた将来へのビジョン――を明確に示さなければ、みずからこうした脅威を招くことになる、とフィンクは主張する。なお、彼が言う目的とは、「社会的意義」を意味する。

 その文面にはこうある。「御社に対する社会の期待は、かつてなく高まっています。社会は、上場・非上場を問わず企業に社会的意義を果たすことを要請しています。長期的な繁栄のためには、あらゆる企業は財務的に優れた成果を上げるだけでなく、社会のためにどうプラスの貢献をするのかを示さなければなりません。企業は、株主、従業員、顧客、そして事業を営む地域社会を含むすべてのステークホルダーに、恩恵をもたらさなければならないのです」

 企業はしかるべき努力によって「運営する許可」を獲得し、株主のみならず広範なステークホルダーに貢献しなければならない、という考え自体は、当然ながら目新しくはない。しかし、ジュディ・サミュエルセンが記事で述べたように、「世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEOが、企業は利益を生むだけでなく社会に貢献しなければならないと言えば、これは強力なメッセージになる」。新たな興味関心をかき立て、すでに存在する運動の火花を煽り立てることになるのだ。

 経営学の教育者と研究者が積極的にこの問題に取り組めば、その力で炎を大きくすることが可能だ。

 昨今、経営学を教える正規の教育機関は、新しい枠組みと方法の創出において、学界外の思想家に後れを取っている。近年の経営実務で歓迎されているイノベーションは、(経営学の本流ではなく)周縁部から生み出されている。新しいコミュニティやグループが、アジャイル(あるいはスクラム)のムーブメントやデザイン思考、リーンスタートアップの方法論、脱予算管理のアプローチなどを開発してきたのだ。

 ところが、ハーバード・ビジネスス・クールのクレイトン・クリステンセンが指摘したように、経営思想の世界には、共通の言葉と基礎的理論が欠けている。研究者と現場が礎石として前進するための強固な基盤が、大いに必要とされているのだ。

 これには、大学が重要な役割を担える。その際に求められるのは、ピーター・ドラッカーが示した概念である「一般教養としてのマネジメント」を教える広範な取り組みだ。

 経営における葛藤の核にあるものは、ドラッカーが初の著書を書いたときから変わっていない。すなわち、社内で「起業家精神、創造性、コミュニティ」を生み出す「人間中心の要素」を殺すことなく、いかに「集団的成果を達成するための体系的なアプローチ」を確立するかである。近年では両軸のバランスは、技術者至上主義、財務理論中心の側へとますます傾いている。

 社会運動は、人間の顔を持った異なる資本主義を実現できるだろうか。企業と社会を一夜にして変える手段すべてを備えている人はいない。ただし集団になれば、長期的にそれを実現するために必要なものは揃っている。

 優れた経営理論家であり、ストーリーテラーでもあるチャールズ・ハンディは、昨秋ウィーンで開催された2017年グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムの閉会の挨拶で、この点を的確に表現した。経営者らに対し、自社には社会を変える力があることに気づこう、と呼び掛けたのだ。「暗闇の中に、小さな炎を灯しましょう。それが広がり、世界が明るくなるまで」

※本記事は、2018年11月29日・30日にウィーンで開催される第10回ピーター・ドラッカー・フォーラムに寄せて書かれたものである。


HBR.ORG原文:Socially Responsible Business Can Only Succeed If It Becomes a Movement  March 16, 2018

■こちらの記事もおすすめします
企業文化をトップの命令ではなく、ムーブメントによって変革する方法
いま、リーダーシップより「コミュニティシップ」が重要である

 

リチャード・シュトラウプ(Richard Straub)
欧州ピーター・ドラッカー・ソサエティー創設者。以前はIBMに32年間在籍。欧州経営開発協会(EFMD)の執行委員、欧州学習産業グループの事務局長。IBMのグローバル教育活動の戦略アドバイザー。