調査結果は何を示しているか

 我々は行動(長時間労働)とメンタリティ(働かなければという強迫的な衝動、すなわち「ワーカホリック」)との違いを解明しようと試みた。

 そこで我々は、3500人以上の従業員が働く国際的なコンサルティング会社のオランダ子会社で、2010年に調査を実施した。まず従業員には、アンケート調査票に記入するよう依頼した。次いで、医療スタッフの実施する人間ドックに参加することを依頼した。763人の従業員が両方の依頼に応じてくれた。

 調査票では、参加者たちのワーカホリック傾向(例:「何かに取り組んでいないときには、罪悪感を覚える」「仕事のときは自分で締め切りを決めて、みずからにプレッシャーをかける」)、仕事のスキル、仕事のモチベーション、そして通常の週の労働時間について尋ねた。また、頭痛や胃の疾患をはじめ、さまざまな心因性の健康問題を抱えたことがあるかも尋ねた。

 人間ドックの結果からは、さまざまなバイオマーカー(たとえばウエストのサイズ、中性脂肪、血圧、コレステロール値)に関する情報を得た。これらの情報を全体的に把握すれば、心血管疾患や糖尿病を発症するリスクを評価するための信頼できる基準になる。ちなみにこのリスクは、「メタボリック・シンドロームになるリスク(RMS)」と呼ばれる。また性別、年齢、学歴、心血管疾患の家族歴など、多くの要因のコントロールも行った。

 調査の結果、労働時間は健康問題に関連していない一方、ワーカホリックは関連していることが判明した。

 長時間(通常は週40時間超)働くけれど、仕事のことで思い詰めたりしない従業員は、ワーカホリックな従業員に比べ、RMSレベルは高くなく、健康上の訴えも少なかった。ワーカホリックな従業員は、長時間労働の有無にかかわらず、健康上の訴えが多く、RMSレベルも高かった。加えて、単に長時間働くだけでワーカホリックな傾向のない従業員よりも、体調回復の必要をより切実に訴え、不眠症など睡眠障害もより多く抱え、いっそう皮肉的になりがちで、精神的により消耗した状態にあり、抑うつ感情をもっと顕著に示した。

 この調査以外で、我々が個別にインタビューしたハンナとマイケルの体験談も、上記の結果に合致する。ハンナは長時間働くが、仕事のことで頭がいっぱいではない。夜、仕事を終えると満足感を覚えて、寝つきもいい。翌朝にはさわやかな気分で目覚め、新たな1日を迎える。彼女は我々にこう語った。「働いている間は仕事に真剣に打ち込みますが、その日の分は十分にやったと判断した瞬間に、仕事のことを忘れます」

 対照的に、マイケルには一生懸命に働かなければという強迫的な衝動があり、仕事をしていないときには気持ちが落ち着かない。仕事のことをあれこれと考え続け、入眠もスムーズではなく、リフレッシュした状態で翌朝を迎えることも難しいと感じることがよくある。一般的なストレスレベルについて尋ねると、彼の答えはこうだった。「仕事についてストレスや不安を感じなかった日がいつだったか、もはや思い出せません」

 単に長時間働くだけの人とは違い、ワーカホリックな人は、心理的に仕事から距離を置くことに苦労する。また周知のように、あれこれ考え続ければ、往々にしてストレスや不安、うつ状態、睡眠障害が同時並行に発生し、仕事疲れからの回復が妨げられる。したがって多くの場合、ワーカホリックな人のストレスレベルは慢性的に高く、身体の疲労困憊が進む原因になる。

 その理由を以下、手短に説明しよう。

 ストレスに対処するために、体内の複数の組織(心臓血管系、神経内分泌系など)が活性化される。たとえば、重要な締め切りが迫っているとしよう。期限が近づくにつれ、ストレスホルモン(コルチゾールなど)、炎症性サイトカインと抗炎症サイトカイン(インターロイキン—6など)、それに血圧がおそらく上昇するだろう。だが締め切りが過ぎれば、これらの値は「セットポイント」として知られている、元の水準に戻るはずだ。

 一方、過度の仕事量を抱えて、体内組織の活性化が通常の範囲を超えて継続している場合は、セットポイントが再設定される可能性がある。上昇した血圧が慢性的になるおそれがあり、コレチゾールも上昇したままになるかもしれない。高くなったままのセットポイント付近で生命システムが働き続けると、心血管疾患や糖尿病、さらには死に至るリスクが高まる。

「ワーカホリック」とは
 心理学者のウェイン E. オーツが、1971年に編み出した造語である。オーツは「絶え間なく働き続けなくてはいけないという、制御不能な考え方」を中毒と称した。ワーカホリックな人の特徴として、一生懸命に働かなければならないという強迫観念を持ち、仕事のことが頭から離れず、働いていないときには罪悪感を覚えて落ち着かなくなることが挙げられる。ワーカホリックはしばしば長時間労働につながっているが、両者には次のような明確な違いがある。
・長時間働いても、仕事に対する強迫観念を持たないことは可能である。
・常に仕事に強迫観念を抱いているが、週の労働時間が35時間以下のこともある。