我々の研究は、「道徳的浄化理論(moral cleansing theory)」を論拠としている。これは、人は自分の道徳的な行動と非道徳的な行動のバランスを求め、望ましい均衡点で「道徳的な自己イメージ」を維持しようとする、というものだ。

 非道徳的で規範を犯すような振る舞いをすると、道徳的な自己イメージが曇り、反動として代償行為へと向かうようになる。それによって、心の中の非道徳的な感覚を「浄化」し、道徳的なイメージを回復するのだ。

 たとえば、2014年に発表されたある研究によれば、非倫理的な決定を下した人ほどチャリティーに寄付する傾向が強いという。

 この理論をリーダーシップの文脈に当てはめてみよう。リーダーが部下を言語的・非言語的に不当に扱う(からかう、怒鳴りつける、罵倒する、その他の不快または非礼な振る舞いをする)ことは、道徳観念上の2つの重要な要素である「気遣い」と「正義」に反するといえる。部下を侮辱するとリーダーの道徳的な自己イメージが弱まり、その逸脱を償おうとして、当該者への償い行為に向かうのではないだろうか。

 我々はこのことを検証するために、中国でリーダー99人と、その直属の部下140人を対象として、2つの調査を2週間実施した。

 1つ目の調査では、ある不動産会社のリーダー31人とその直属の部下72人が、10日間にわたって各就業日の終わりにアンケート調査に記入した。リーダーには、部下に対する侮辱的な振る舞いと経験した感情を自己診断してもらった。部下には、リーダーのその日の建設的な振る舞いを報告してもらった。その結果、これらのリーダーたちは、過去の研究事例と同レベルの侮辱的な監督行為をしていたことがわかった。

 また、次のことも判明した。リーダーたちは、直属の部下に言い争いを仕掛ける、からかう、無視するなどの侮辱的な振る舞いをすると、罪悪感を抱き、かえってその部下にさらなる関心を払う。そして、2種類の振る舞いに出る。

 1つは「支援的」な振る舞いで、侮辱的な扱いをした部下に配慮を見せ、安寧を気遣うなどをする。もう1つは「指導的」な振る舞いだ。仕事の目標や期待される役割を明確にする、意思疎通のパイプをオープンにしておく、当該部下の能力向上を助ける、などである。

 2つ目の調査では、靴製造会社のリーダー68人が10日間連続で、正午にアンケートに回答し、午前中の自分の侮辱的な振る舞いと心理的な経験を検証した。一方、彼らの直属の部下は、各就業日の終わりにアンケートに回答し、リーダーによる午後の償い行為を検証した。

 我々の分析からは次のことが示された。リーダーは、侮辱的な振る舞いをした後に罪悪感を抱いただけでなく、「道徳的信望を失った」と報告した。道徳的自己イメージの低下の表れである。したがって、その後、1つ目の調査で見られた支援的および指導的な償い行為がより顕著に見られた。

 ただし興味深いことに、これらの結果は2つの重要な要因に左右されることがわかった。

 第1に、侮辱的な振る舞いをしたリーダーがその過ちを償うのは、職場で道徳的問題に対する高い意識がある場合か、あるいは、自己の道徳面を頻繁に省みる場合のみであった(この2つの性向については、各調査の最初にアンケートを実施する前に測定した)。

 第2に、侮辱的行為への償いをしようとする人は、自分の過ちに向き合う道徳的勇気があり、さらに、道徳的原則を守ろうとする強い意志力も持ち合わせていた(ともに各調査の最初に測定した)。

 言い換えれば、道徳面で高い意識と勇気があるリーダーだけが、部下を不当に扱った後に償い行動をしていたわけだ。

 分析では、侮辱的な振る舞いの頻度については関連を示す証拠は認められなかった。つまり、部下を怒鳴りつける回数の多いリーダーほど、罪悪感を感じて自分の行為を償う可能性は低い、という結果は見出されなかった。ただし、道徳意識に関する自己評価が低いリーダーは、自分の行為を償う可能性が低いということはわかった。