変革の進め方は一様ではない

PwCコンサルティング
常務取締役 パートナー
ストラテジーコンサルティング
(Strategy&)リーダー
三井 健次 氏

三井:『成長への企業変革』では、ケイパビリティに基づくコスト削減と経営資源の最適化をロジカルに、かつ具体的に説明しています。たとえば、戦略を策定し、その戦略を実行するために必要なケイパビリティは何かを特定し、ケイパビリティの強化につながる部分については積極的に投資する一方で、ケイパビリティ強化と関係のないコストは徹底して削る、といった具合です。

 しかし、現実は同書にも書いた通り、ロジカルに変革が進むわけではありません。小さなことから始めて効果が出れば、もう少し広げる。それが続くとあるタイミングで、「投資すべき領域とコストを削減すべき領域にもっとメリハリをつけるためには、やはりケイパビリティを特定する必要がある」という議論になることもあります。変革の進め方は一様ではありません。

八木:LIXILではグローバル市場で勝つために、数多くの変革を行いましたが、そこで重視したのはスピードです。日本には完璧を求める組織風土が根強くあります。効率的な大量生産システムが勝敗を分ける時代はそれでもよかったのですが、イノベーションの時代にはスピードが勝負のカギを握ります。完璧を目指して時間をかけるよりも、10点の出来でも素早く実行したほうが勝ちに近づけます。

 そもそも全員が賛成する変革プランなんてあり得ませんから、リーダーが変革のストーリーを語り、それに賛同する者が集まってチームをつくり、できるところから素早くやる。そして、リーダーは難しい仕事ほど“できる”人間に信頼して任せる。そうすることで、次のリーダーが育っていきます。

井上:効率的な大量生産システムで勝ってきた企業には、コストが減ることはいいことだという共通認識があります。ただ、いままでのやり方を変えることへの心理的な抵抗が強く、納得しないと動かないという傾向が強いですね。

八木:コストを削減して、ケイパビリティを伸ばすための投資原資を捻出するという順番だけでなく、その逆を考えてもいいでしょう。

 LIXILにいた時、古くて狭いオフィスで約2000人が働いており、その環境に不満を抱いている社員が多くいたので、約20億円を投資して、オフィス環境を一新することを決めました。その際は、「1人当たり10万円コストを下げてオフィスをきれいにしよう」と訴えました。1人10万円で年間20億円のコスト削減となり、投資は1年で回収できます。月にすれば1万円以下です。トップダウンで投資を先に決めて、コスト削減については「その方法論は任せる」と。

 また、ある事業部門がプライシングを検討している際、「価格1%のアップは1200人の雇用確保と同じだ」と話したこともあります。投資とコストを結びつけ、皆が関心のあるストーリーとして語ることで、各論反対の人たちも変わっていきます。