連載の影の立役者

入山:連載の関係メンバーと言えば、永山君のことは外せないです!永山君と会ったのは、2011年ごろ。残念ながら、海外の経営学の学会に日本から来る経営学者は、少ないんです。だから僕は、日本の経営学者との人脈が、当時はほとんどなかった。

 その中では、例えば慶應の三橋平先生は数少ない、国際的に実績のある研究者で、海外の学会でもよくお会いしていた。その彼から、「日本に帰ったら会ってみれば?」と紹介してもらったのが、早稲田の井上達彦先生だったんです。

 井上先生の主戦場は国内の学会なのですが、海外の経営学にも関心の強い、非常にオープンな方です。そこで日本に一時帰国をした際に、井上先生の研究室に伺って、そこにいたのが当時井上研究室で学んでいた永山君でした。

永山:当時は博士課程に入ったばっかりで。井上先生が「今日これから入山さんという人が来るけど、永山君も同席する?」と声を掛けられて、「じゃあ、ぜひ」と同席したのが、入山先生に初めてお会いした時ですね。軽妙なお兄さんだなっていう印象を持ちました(笑)

入山:当時、僕は日本のデータを使って統計解析する研究をしていたんですよ。けれども日本に知り合いがいなくて、データの収集に困っていた。そこで永山君ならやってくれるかなと思って…アメリカに戻ってからもたまに連絡して。

 浜松町にある自動車図書館にしかない資料を集めて、それを送ってくれとか、一緒にデータをスプレッドシートに入力する作業をしてくれとか……永山君にはたくさん無償で手伝ってもらっていました。いまだに彼は無償で手伝ってくれているんですけれど(笑)。

 永山君は僕とは全然違って、全部かっちり、そつなく仕事ができるタイプなので。一緒に仕事をしていると、やっぱり優秀だなとわかるんです。だから、「おお、すげえな」と思って、いろいろとお願いをしていましたね。

岩佐:なんか、無償にも程があるというか(笑)永山先生、なんでそこまでされているんですか!?

永山:やっぱり当然ですけれど、自分の知らないことをすごく知っている。入山先生とお話しする時に、全然知らない世界があるんだなというのを、ひしひしと感じた。だから勉強になるし、面白かったというのが大きいですよね。でも、連載もお手伝いすることになるほど、長い付き合いは、この段階では全く予想していませんでした。

入山:この連載の立役者は永山君なんですよ。この連載で自信を持って書けたのは、連載に度々登場する「実証研究の表」があったからです。

 世界の経営学における理論は、単なる言いっ放しではなく、統計分析などによってきちんと実証されたものです。海外の実証研究を数多く紹介することで、理論にはその「裏付け」があることを示せた。この実証研究の表が各回にあったからこそ、この連載がアカデミックにおいても質が高いことが示せたと思います。実際、いまアメリカの大学院の博士課程で勉強中の学生なんかも、この連載を読んでアメリカでの勉強・研究に役立てているそうです。

岩佐:この表は、入山先生がご自身でつくろうとは思われなかったんですか。

入山:最初1回ぐらい自分でやろうとしたんですよ。そうしたら、「これやるの、つれえなぁ」って思って(笑)。

永山:実証研究の表が初めて登場したのは、第4回の「リソース・ベースト・ビュー」ですね。

入山:第4回で、もう辛くなったんだろうね(笑)。

岩佐:この表は、ほぼ毎回永山先生がつくっているんですか。

永山:いや、途中から僕が完全にやっているっていうわけではなく。

入山:そう。「永山グループ」になってきたんですよ。勝手に永山君が……

永山:僕自身も、さすがにこれをずっと一人でやるのは大変すぎると思って(笑)。勝手に他の博士の学生とかを集めてチームをつくって、分担して作るようになったんです。

入山:永山君が僕の言わんとしたいイメージを一番理解してくれるので、まずは永山君に概要を伝えて、依頼をするんです。

永山:それに基づいて、「こういう項目で、こういう論文を調べて」と、メンバーに作業を指示するシステムに変更しました(笑)。そして、メンバーから上がってきたものを確認して、入山先生にお渡しする。

岩佐:依頼が直接来て、グループで割り振ってやって、品質チェックして納品と。

入山:なんかもう、会社みたいですよね(笑)。

岩佐:で、裏で連載を支えているけれども、ダイヤモンド社が原稿料を振り込むのは、入山先生だけ。入山先生から謝礼はあったんですか。

永山:謝礼は、謝辞に名前を載せてくれるだけです(笑)。いつも、連載の最後の注釈で、「永山氏に多大なる協力をいただいた~」のような形で、名前を載せてもらっていました。恐らくDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー誌上、最も謝辞に名前を書かれた男だと思います(笑)。

入山:面白いのが、この連載を通じて永山君は出世魚のように出世していくんですよ。最初謝辞に登場したころは、「早稲田大学博士課程」という肩書きだったのが、しばらくすると「助手」になったんですよ。そのうち「助手」から「早稲田大学助教」の肩書になって、そして「法政大学専任講師」になって、最終回ではついに「法政大学准教授」(笑)。出世したね~。

岩佐:法政大学に移られてからも、その仕事は続いていたんですか。

永山:1回ぐらいやった気がしますけど、でも、ほとんどありませんね。実証研究の表は無くなったんですけど、今度は内容を(笑)。

入山:そう、だんだん永山君が僕以上に力をつけてきて、特に社会学ディシプリンの理論なんかは僕よりも詳しくなり始めたんです。そこで、連載の内容そのものを相談しはじめた。「来月、何書けばいい?」って(笑)。

岩佐:じゃあ、もっと手伝ってもらっているじゃないですか!

入山:そうですね。僕が言うのもなんですが、お金の関係じゃないんです。ゼロ円、ゼロ円ですよ(笑)。ほんとに1年にいっぺんぐらい、「じゃあ、ウナギ食べに行こう」とか言って。

永山:ありましたね(笑)。ウナギ食べましたね。

岩佐:じゃあ換算すると、連載1回で500円ぐらいの報酬ですかね(笑)。

入山:もっと安いと思う。

永山:時給10円ぐらいですか(笑)。でも、このお手伝いがあったことで、自分が今まで見なかったような論文を読むきっかけにもなったので、勉強にはなりましたね。

入山:永山君の知識量はすごいです。僕よりはるかに論文も読んでいるので、本当にいろいろと相談しているんですよ。はっきり言って僕よりはるかに知っている。

岩佐:お二人で共同研究もやっておられますよね。

入山:やっています。でも、例えば今書いている論文も結局、僕はほとんどアイデアを口で言っているだけで、実作業の95%は永山君です(笑)。話していると、僕のやっていること、マジでひどいですね。

岩佐:first author(論文の筆頭執筆者)はどちらですか。

入山:永山君です(笑)。これで僕がfirst authorになったら、永山君に刺される。

岩佐:入山先生がこれだけ永山先生を巻き込んでいらっしゃいますが、実はDHBR編集部も、永山先生にすごくお世話になっています(笑)。

 1回目は、2016年7月号に当時LIXILのCEOだった藤森さんが退任される時に、我々がインタビューを行った。インタビューの記事の中に、コラムで「データで藤森経営を分析してみよう」という企画を立てました。自分でもなかなかいいアイデアだと思って、すぐに依頼したのが永山先生でした。

 こちらのリクエストは非常にざっくりしたものだったんです。それに対して、永山先生が指標を選んでデータを集めてきてくれる。それに対して、「いや、それじゃダメだ」とか「もっとここを表現したいから、他の指標使えないでしょうか」などと何度も指標とグラフの見せ方を変えてもらったんです(笑)

 最終的には、比較企業のデータも使うことによって藤森さんの経営姿勢をよく示す、かつこれまでなかったユニークな数値データを示すことができました。その時、僕も永山先生は凄いなぁと思いました。

入山:それがほんとに出たんですね。

永山:そうなんです。

岩佐:見開き2ページなのに、データの部分だけでも、3回ぐらいやり直しをお願いしました。その後に、次は2017年7月号の「生産性」の特集では寄稿論考をお願いしたんです。これもまた素晴らしかった。

入山:この永山君の論考は、ほんと素晴らしかったですよね、この論文のフレームワークを使った記事が日経新聞の1面に掲載されたしね。

岩佐:これも、僕らには示したいことはあるけど、答えはない。最初、永山先生が縦横の軸を作ってくださったんですけど、なにか違う。こうすればいいと僕らは言えないのに、何度も駄目出しをして(笑)、その度にフレームワークを作り直してくださるんです。

 要するに、入山先生だけではなく、DHBR編集部としても、永山先生には大変お世話になっていたということに、いま気がつきました(笑)。

入山:まあ、本人にそれに応えるだけの力があるからですよね!

運命の「第1回事件」

入山:2014年夏に連載がいよいよ始まるという時に、「第1回事件」というのもありましたね。連載の初回だったので、僕も本当に気合いが入っていたんですよ。もうとにかくやるぞ!と気合を入れて、まず最初のバージョンの原稿を肱岡さんに送ったんです。

 すると、すぐに肱岡さんから電話が来て、「入山先生、ちょっとお会いしたいです」と。僕は天然だから意図が良く分かっていなくて、なんで会いたいんだろう?と思ったんです。しかも、「あと、岩佐も一緒に伺いますね」と言われるので、「あ、いいっすよ、いいっすよ」とか呑気に返事をしていたんです。

 僕は「直接相対なんて、どんな楽しい話があるのだろう!」と思っていたら、予想外に神妙な面持ちで二人が研究室にらっしゃった。そして、岩佐さんから「入山先生、今回の原稿、これはお手並み拝見っていうことですか」と言われて(笑)。たぶん岩佐さんとしては僕に最大限気を使った上での言葉だと思うんですが…。「ああ!この原稿面白くなかったのか…今オレはもっといいものが出来ますよね?と言われているのか。これが世間でいう『ダメ出し』ってやつだな…」と、さすがに気が付きましたね。(笑)。

岩佐:僕はメールではなく、きちんと会って話をした方がいいと思って研究室を訪ねたのは覚えているんですが、そんなにダメ出しをするつもりも、したつもりもなかったんです。入山先生にとって大事件だったですね。

入山:僕はあれですごくスイッチ入って。「あ、これ、全然ダメなんだ」って気がついて、実はそれから2日ぐらいで全て書き直したんです。そしたら、見違えるようによくなった。

岩佐:申し訳ないですが、僕はその最初の原稿の内容をよく覚えていないんです。「イメージと全然違うなと」感じたのは覚えています。だからその第1回の最初のダメ出し原稿を、今読みたいなと思うんですよね。

永山:岩佐さんの中で「こういうのがいい」というイメージは、あらかじめあったんですか。 

岩佐:いや、ほとんどいつも答えはないんです。この時もありませんでした。なのに、「来たものが、いいか悪いか」は言えるんです(笑)。

入山:それが編集者なのでしょうね。もう、感覚ですよね。こういったことは、言語化できないんですよね。

岩佐:そう。「こうじゃない」って伝えて。では、「これが違うのならば、どうすればよいか」というところから、議論をスタートしていく。学者も編集者もお互いクリエイティブに何かつくっていこうとする。その掛け合いが仕事の面白さなのだと思います。

入山:あ、僕のパソコンに第1回の原稿、残っていますね(3人でPC画面を見る)。タイトルに大幅再修正って書いてある(笑)。いや、怖い。これ、見てもいいですか……あー、これ、ダメなやつです。完全ボツ原稿。今思うとダメですね。ほんとダメ。

岩佐:なんていうか、う~ん、なんだろう。

入山:まず読者を想定していないですよ。自分が言いたいことを書こうとしていて。

岩佐:読者へのサービス精神がないですよね。あ、分かった!これは、「著者の決意表明だけ」なんですよね、だから違うなって思った。

入山:ああ、分かります。連載を執筆するに当たっての決意表明なんか全然面白くないですもんね。むしろ、第1回のボツ原稿で書いている話、いままさに最終回で触れていますもん。最初に書く話じゃない。

岩佐:ダメ出ししてよかった(笑)

入山:いや、これはダメ出しでよかったですよ(笑)。こうやってみると、これは大事な「運命のダメ出し」でしたね。最初にダメ出しされていなかったら、ズルズルいったはずです。

岩佐:事前にどれだけ打ち合わせをしても、いざ原稿を頂くと全然違うと感じてしまうことはよくあります。だから、どうやって伝えるのかは、編集者として日々難しいと感じていました。こういうのが作りたいというイメージは、非常に抽象的なんです。

入山:そうですね。言語化できないものを言語化する作業。編集者ってそういう仕事なんですね。しかも、言語化する著者当人も何だか分かってないっていう。それでもディレクションをしなければいけないのは、編集は本当に面白い仕事ですね。

岩佐:そうですね。さらにわがままを言わせていただくと、イメージどおり出てきてもらっても、こちらはつまらないんです(笑)。こちらの陳腐なイメージを超えてほしいじゃないですか。

 編集者がイメージを出して、それに対して著者の方からこちらのイメージを超えてやろうっていうものを出してくれる。そんな関係がいいですよね。

 その意味では、入山先生は、こちらの言葉にならないメッセージを解読する力とともに面白さに関するセンスが抜群に高い方ですね。

入山:そうですかね。自分ではよく分からないですけど。

岩佐:読んでくれた人に「わお!」って言わせようと企んで書いてくださる。

入山:それは、いつも意識していますね。Murray Davisの“That’s Interesting!”【注】という、非常に有名な論文があるんです。海外の経営学者が博士課程時代によく読まされる論文なんですが、それは「面白いとはどういうことか」について書かれているんです。

 その論文に書かれていることですが、「面白い論文」には条件があるんです。それは基本的に全部、「期待を裏切るもの」が面白い。それに尽きます。

 Aだと思っていたものが実はBでしたとか。あるいは、別々だと思われていたものが、実は一緒ですとか…。そのような時に、人間は「面白い!」と感じるんです。結局、学術的な研究も知的に面白いかどうかが、すごく重要なんですね。

 ただ、僕自身は「経営学ではそれが本当にいいのか」って主張をよくしています。つまり、つまらなくてもいいから、冷静にファクト・エビデンスを積み上げる研究っていうのがもっと評価されるべきだとは思っているんですけどね。

【注】That’s interesting! Towards a phenomenology of sociology and a sociology of phenomenology. Philosophy of The Social Sciences, 1(2), 309–344.