ゲイリー・ハメルの慧眼

入山:こういう組織マネジメントに佐宗さんが取り組むようになったのは、どういう経験が影響しているんですか?

佐宗:私にとって大きかったのは、Sonyにて「Sony Seed Acceleration Program(SAP)」という新規事業創出プログラムの立ち上げに関わったことですね。ソニーの経営陣とのディスカッションを通して、「複雑な時代におけるマネジメントって何だろう?」と考えていた時に、ゲイリー・ハメルに出会いました。「マネジメント2.0」という論文はまさにティール組織とも通じるこれからの経営の考え方を経営学サイドから提示している論文だと思いました。

入山:世界的に有名な経営学者ですね。

佐宗:その論文には「マネジメントの大いなる課題25」が挙げられています。「経営陣がより次元の高い目的を果たす」とか、「不安を取り除き、信頼関係を高める」、「階層性の欠点を取り除く」、「戦略立案プロセスを改め創発を促す」「参加型の手法を用いて組織の方向を決める」とか。

入山:それって『ティール組織』で言われているようなことですよね。

佐宗:まさしくそうなんです。この論文からヒントを得て、新規事業創出プログラムの構想をする際に、意思決定の方向性だけは明確にして、あとは新しいものが生まれやすい環境を整えるマネジメントに移行することが、大企業で新たなものを産み続ける環境を作れるのではという視点から構想したのがSAPでした。その視点で、経営陣への提案を作りました。

ティールは「正解」ではなく、「現象」である

入山:いまの話を聞いて、嘉村さんはどう思われましたか?

嘉村:組織のあり方について、経営陣と直接話されたのが重要な点だと思いました。この本の著者のラルーさんは、マッキンゼーを辞めて世界中の組織を訪ねまわった結果、ある衝撃的な事実に突き当たります。それは、「組織はCEOの意識レベルを超えない」というものです。

入山:つまり…トップの意識がコマンド&コントロール志向(達成型組織の特徴)である限り、組織の発達段階も「達成型」であると。

嘉村:そういうことになりますね。ちなみに著者のラルーさんが調査したのは、ビュートゾルフのような訪問医療の会社から、メーカー、インフラ、ITまで様々で、従業員数も数百人から数万人まで多岐に渡ります。

入山:なるほど。業種や規模は問わないと。

嘉村:そうです。ただ、この本でラルーさんも強調していますが、ティールという進化型組織の存在は、あくまで「現象」であって、「正解」ではないということです。

佐宗:ティールが正しくて、従来型の組織が悪いとか、そういう話ではないということですよね。経営者が自分の意識や自組織の発達を内省して、誰かと対話して、「これからの組織」を探究するきっかけにしよう、というのが著者のメッセージだと思います。

入山:最後にもう一つお聞きしたいことがあります。ティール組織というのは、ゼロから作るものか、それとも既存の組織を変えるものか。これについてはどう思われますか?

佐宗:この本にはどちらの事例も出てきますよね。圧倒的に需要が大きいのは後者だと思いますが。

嘉村:後者の場合、いきなり組織全体を移行させるのではなく、例えばある部門や支店から変えることも十分可能だと思います。

入山:その際も、先ほど言われたように部門長や支店長の意識レベル次第?

嘉村:そうですね。でも、もしある階層のトップでなかったとしても、例えば佐宗さんがSAP立ち上げ時に経営陣と対話されたように、誰もが組織を変えるトリガーになり得ると思います。

入山:上が変わらないと嘆く前に、まず自分が変われるかと問うことが重要なのかもしれませんね。嘉村さん、佐宗さん、今日はありがとうございました。

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