階層構造で組織を動かす時代の終焉

入山:「自主経営(セルフマネジメント)」の話が出てきたので、ティール組織の「3つのブレイクスルー(突破口)について教えてください。

嘉村:はい、「自主経営=セルフ・マネジメント」、「全体性=ホールネス」、「存在目的=エボリューショナリー・パーパス」です。

 一つめの「自主経営(セルフ・マネジメント)」ですが、カタカナだけで「セルフ・マネジメント」というと、少し誤解を生むと思います。一人ひとりが自分を律し、コントロールするというような。

 著者のラルーさんが言いたかったのは、階層構造あるいは上下関係で組織を動かす時代は終わりました、ということです。一人ひとりが自由に意思決定できて、信頼のネットワークで動いていくあり方のことを「自主経営(セルフ・マネジメント)」と呼んでいます。

入山:なるほど。

嘉村:従来型の組織における意思決定は、大きく1種類ありました。1つは、上に承認をもらうというもの。

入山:稟議をあげる、というものですね。

嘉村:そうです。もう1つは会議にかける、というものです。多数決のこともあればコンセンサスのこともあります。

入山:コンセンサスとは「みんなで決める」ということですね。

嘉村:はい。しかしティール組織ではその2つではなく、本で言う「助言(アドバイス)プロセス」で意思決定を行っています。これは、組織にいるすべての人が、ハサミを買う、100万円の予算をつける、あるいは採用から給料まで、自分で決定できる、という前提があります。

 しかし、その課題について専門性の高い人か、意思決定から影響を受ける人から、必ずアドバイスをもらわなければなりません。提案者はいただいたアドバイスを真剣に配慮しなければならないが、最終的にどう決定するかは提案者の自由です。

入山:組織は完全に自主的に動いていて、組織のメンバーは承認者というよりは助言者である、ということですね。

嘉村:はい。なのでものすごく透明性が高く、「他責」という考え方も生まれません。そして、真剣にアドバイスし合うという信頼関係がないと一気に崩れてしまいます。「ドライな会社ですね」という反応もありますが、真逆で、信頼関係がないとできないのです。

ありのままの自分を出せないのはもったいない

入山:ありがとうございます。2つ目の「全体性(ホールネス)」についてはいかがですか。

嘉村:ありのままの自分を出せる環境、ということですね。本来人間というのは、表面的な自我(エゴ)もあれば、願望や志といった深い自己もあります。加えて、男性性や女性性、直感や感情もある。

 ところが今の職場は、男性的で合理的な側面しか持ち込むことができないようになっているんじゃないかと。それって人間の一部分しか活用できていないので、損失ですよね。

 人間そのままの素晴らしいところを使って、組織運営をしていこうよ、ということです。

入山:そういう意味では、僕が読んだ感覚としては、単純にエゴがないってことです。エゴというのは「わがまま」という意味ではなく、「自分を中心において周りを見る」ということ。ホールネスというのは、前提として「自分もいるんだけど、自分は全体の一部でしかない」っていう視点に立っているのではないかと感じたのです。

嘉村:まさにそうですね。ありのままの自分を出せる環境にいると、人は本当に自分とつながれる。そうなると、環境に対しての視座や、社会問題に対する視座が高まり、メンバーのネガティブな側面にも視野が広がるというようになります。このことを本では「全体性を取り戻す」と表現しています。

ティール組織は中長期事業計画を持たない

入山:なるほど。最後に「存在目的」というのは。

嘉村:「今、自分たちの組織は何のために存在するのか、どうあるべきか」ということです。実は、ティール組織のほとんどは中長期事業計画のようなものを持っていません。

入山:中長期事業計画がない?

嘉村:ほぼないです。その時々の状況に応じて存在目的を問い、素早く掴み取り、臨機応変に事業内容も組織形態も変えながら進んでいくんです。

入山:自分の存在意義は、かなり求めていくんでしたっけ?

嘉村:求めて「決める」んじゃなくて、「探求し続ける」っていう言い方をしますね。ある人が言っていたのは、「賢州さん、子どもの未来をあなたが決めませんよね? 組織っていうのは世の中に生まれてしまったら、その存在意義もビジョンも決めるっていうことができない」ということです。

入山:確かに子どもとの関係ってそうですよね。でも今の組織は、10歳の子を諭すように「こっちのほうが得だ」みたいな言い方をしている。そうじゃなくてそもそも自分たちがどうやって生きていくか自体を、「探求すること自体」が一番重要な指針になっていく。

嘉村:そのために全員がセンサーになっているわけですね。全員が「どの方向がいいか」ということを、常に考え続けて、変えていくんだという。

入山:なるほど、つまりまとめると、自分たちの組織の存在意義を探求するからこそ、自分視点じゃなくて全体感が必要となる。それが結果としてそれぞれが自主的に行動して階層がまったくなくなっていくんですね。

嘉村:そうですね。それが綿密に絡み合いながら進んでいくんです。

後編につづく