デジタル化が意味するもの

 このように先進的な小売業は、テクノロジーを駆使して新たな価値を創出している。その本質的目的はチェーンストア理論の原点である経済民主主義、お客様への“生活提案”の実現であり、デジタル化の時代においてもそれが変わらないことは上述した通りである。

 ではデジタル化によって変わることは何か。一つはこれまで必須要件とされてきたことが変わることである。チェーンストア理論ではその目的を、効果的・効率的に実現するための手法と必要な条件を説いている。それがマス化、標準化、バーチカルマーチャンダイジングであり、これを通じてチェーンストアとしてのご利益を提供できる、としている。

 ここで”ご利益”として顧客に還元する中心的な価値はコストを下げることであるが、デジタル化によってこのコスト削減方法が進化し、必ずしもマス化、標準化が必須要件ではなくなってきている。その代わりに標準化すべきはデジタルで扱う情報であろう。自社の内部のみでリーチできる情報だけではなく、外部の情報も扱えるようにならなければならない。もし、内部や外部で情報化されていないものがあれば、それを利用可能な状態にすべく、積極的な投資を行うべきである。

 もう一つの変化は、顧客への“生活提案”を多様化させることが可能になることである。これまでは、コスト効率追求による「商品・売り場の魅力」を顧客への提案としていた。デジタル化によって、これまで見てきたように、自分に最適化された商品・情報を(パーソナライズ)、いついかなる時間・場所でも(ユビキタスショッピング)、お買い物全体の体験をより便利に魅力的に(サービスシフト)、素早く(時間的自由度の最適化)、かつ、これまでよりも圧倒的に低コストで実現できるようになるのだ。すなわち、まさに本来チェーンストア理論が目指していたお客様への”生活提案“が真の意味で実現できる時代が来ていると言える。

 さまざまなテクノロジーが台頭し、目まぐるしく新たなサービスが登場している時代であるからこそ、本質に回帰し、何を企業としてお客様に提案すべきかを見つめ直すことが不可欠となる。

出所
※1 厚生労働省「地域別最低賃金一覧」の全国加重平均額推移直近3年間平均2.8%
※2 総務省「2015年基準消費者物価指数」(2018年2月)の年平均総合指数
※3 Accenture Adaptive Retail Research Consumer Survey 2016
※4 アメリカ合衆国経済分析局(Bureau of economic analysis)personal consumption expenditures
※5 eMarketer [Total_Media_Ad_Spending_by_Media]
※6 Buzz plant [New Science Behind Trust & Recommendations on Social Media]
 
江川恭太(えがわ・きょうた)      アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー           早稲田大学大学院卒業後、2006年にアクセンチュア入社。流通小売業、消費財を中心に事業戦略、新規事業、営業改革、SCM改革の他、デジタルを活用した変革にも多数従事。