私はビビアン・ファング、カタリーナ・ルウェレンとともに、この調査を試みた。CEOの報酬は、短期主義を助長しているのか。彼らは、短期的に株価を上げるために投資を減らし、その後に持ち株を売っているのだろうか。我々は、これを明らかにしたかった。

 しかし、単なる相関関係ではなく、因果関係を立証するのは困難を極める。たとえば、投資を減らした後に持ち株を売ったCEOを見つけたとしよう。持ち株を売るために投資を減らした、というのが1つの解釈である。だが同時に、自社の長期見通しが振るわないからそうした、とも捉えられるのだ。この場合CEOには、(適切に)投資を削減する理由、および(合理的に)持ち株を売却する理由がある。したがって、投資と株の売却には相関関係はあるが、因果関係はない。

 そこで我々は、CEOが売却する株式数ではなく、「権利が確定する予定の株式数」を調査した。CEOの持ち株の権利が確定するまでには、売却禁止期間が設けられている。この期間が過ぎると、CEOはようやく株を売ることができ、たいていは実際に売却して、個人投資の分散化を図る。そのため、売却禁止期間が終了する時期になると、CEOは株価を気にするようになるのだ。

 ただし、売却禁止期間が終了するタイミングは、数年前に取締役会が株を与える決定を下したときに定められている。その時点で、取締役会が会社の現在の状況を見通していたとは考えにくい。このため、株を与えた当時の判断や、株の売却権利がいまのタイミングで確定するという事実は、投資に関する判断要素とは関係ないと思われる。

 そこで、CEOによる持ち株売却のタイミングではなく、売却権利が確定するタイミングに注目すれば、CEOの個人的な財産への関心と投資削減の相関関係だけでなく、因果関係を明らかにできるだろう。

 調査の結果、CEOはある四半期において、権利が確定する株式を多く保有しているほど、投資をより削減することが判明した。この結果は、投資に関する5つの異なる尺度においても、また保有株式とオプション(株式購入権)両方の権利確定についても有効だった。

 さらに、株式の権利確定と、「CEOの四半期業績報告が、アナリストの利益予測をわずかに上回る」確率との間には、正の相関が認められた。これが示唆するのは、株式の権利確定が迫っていると、CEOは長期投資よりも短期利益に注力するということだ(アナリスト予測をわずかに上回ることによって、株価の向上を狙いながら投資削減の正当化も図る)。

 この結果は短期志向の行動と一致するが、我々は別の解釈も検討した。投資削減は、実際に効果的なのだろうか。株価への関心は、強い動機であり、CEOに重大な決断を促す。無駄な投資の削減はその1つだ。ならば、CEOは(株価を上げるために)他の方法も考えるはずではないだろうか。たとえば売上高の伸び率を上げることや、諸々の経費削減などである。しかし調査の結果、それらに努めているという証拠は得られなかった。

 これに加え、ビビアンおよびアレン・ファンと私の新たな論文では、短期的なインセンティブがもたらす長期的影響を、より正確に証明しようと試みている。我々が検証したのは、自社株買いとM&Aである。なぜなら投資削減とは異なり、これらの行動は発表日が明確で、長期的リターンを測定することができるからだ。

 調査の結果、CEOがある四半期に権利確定する株式を多く保有しているほど、自社株買いとM&Aを実施する傾向が高いことがわかった。

 投資削減と同じく、自社株買いとM&Aは奏功することもしないこともある。しかし調査によれば、権利が確定する株式が多いほど、悪い結果につながっている。その場合の自社株買いとM&Aの両方とも、短期利益(発表の前後の四半期における株式リターン)を向上させていた。ところが、長期利益(自社株買い発表から2年後、およびM&A発表から4年後の株式リターン)は有意に低下していたのである。

 つまり、CEOは持ち株の権利確定時期が迫ると、長期的な結果に悪影響を及ぼす行動を取るよう動機づけられるのだ。

 では、上述してきた検証結果は、CEOの報酬に関して、どんな意味を持つのだろうか。