ヴィンセントの経験はけっして珍しいものではない。たいていの経営学プログラムでは、自己認識(セルフアウェアネス)を標準的なカリキュラムに組み込んでいない。大多数のMBAコースは、戦略と財務管理などのスプレッドシートに重点を置いており、現にヴィンセントが秀でていたのも、この両分野だ。だが、これに集中するあまりに、組織で実際に起きていることが、彼には見えなくなっていた。

 CEOの約40%がMBA取得者だ。多くの大規模研究の結果によれば、MBA仕込みの論理一辺倒のリーダーシップは長期的に見ると、財務と文化の両面で必ずしも成果を上げるとは限らない。むしろ往々にして、組織の生産性に弊害をもたらすことが判明している。

 ある研究では、『ビジネスウィーク』誌や『フォーチュン』誌、『フォーブス』誌といった雑誌の表紙を飾ったCEO440人の企業業績を比較した。まず、当該CEOたちを2つのグループに分けた。MBA取得者と非取得者のグループだ。そして最長7年間、CEOたちの業績を追った。すると驚いたことに、MBA取得者グループの業績は非取得者グループよりも大幅に劣っていた。 『ジャーナル・オブ・ビジネス・エシックス』誌に掲載された別の研究では、5000人を超えるCEOの業績を調査して、同様の結論に達した。

 明言しておくが、組織をリードするにあたってMBAが役に立たないと言っているわけではない。ただ、直線型のMBA仕込みの論理だけが重視され、他のスキル、たとえば自己認識や、他者および企業文化への理解がなおざりにされれば、そのリーダーシップのアプローチはバランスが崩れている。

 ヴィンセントの場合がそうだった。彼が達成した数値はすべて優れていた。戦略も明快だった。だが、従業員は彼とともに働くことを楽しめず、次第に不満を募らせていった。

 ヴィンセントは一般的なビジネス理論に基づいて会社を経営していたが、自分自身のことを知りもしなければ、理解もしていなかった。彼には自己認識が欠けていたので、従業員はヴィンセントを心から信頼する気になれなかった。ほどなく、彼らはヴィンセントに従うことにも、彼のリーダーシップをサポートすることにも、熱意を失った。

 ヴィンセントにとって幸運なことに、彼は変化を受け入れることができた。そうして、マインドフルネス(目の前の瞬間に意識を集中させることで、惰性から脱却し能動的に気づきを得るプロセス)と自己認識のコーチングを経て、彼自身が望むリーダー像に以前よりも近づくことができたのだ。

 ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、メドトロニックの前CEOのビル・ジョージによれば、自己認識こそがリーダーシップの出発点だという。自己認識とは、自分の思考や感情、そして価値観を、その時々で認識するスキルだ。自己認識を持てば、真っ当にそして誠実に自分自身をリードすることができ、ひいては従業員と自社をよりよくリードできるようになる。

 我々は100ヵ国以上800 社を超える企業の1000 人以上のリーダーを対象として、調査を実施した。その結果、最上層レベルのリーダーは、より低い地位にいるリーダーよりも優れた自己認識を持っていることが明らかになった。この理由として考えられるのは、より強力な自己認識が昇進のプロセスを加速すること、あるいは、ヴィンセントのように、リーダーシップの責任が増すにつれ、自己認識を強化するよう促されることだ。

 幸い、誰でも自己認識は強化できる。以下の簡単な手順を踏めば、従来のリーダーシップ・スキルを自己認識で補強できるようになる。