ファンという幻想をどう保てるか

 このように、熱狂的なファンがいかにして力を持ったのか、彼らの影響力がどれほど甚大なのかを、さまざまな事例とともに知ること自体に面白さはある。ただ、個人的に本書が興味深さを覚えたのは、こうした潮流を手放しで称賛するのではなく、あくまでビジネスの中に見られる現象として、冷静さを保ちながら捉えている点である。

 筆者は「ほとんどのファンは、自分が深く愛するオブジェクトが、正確な意味では、本物でないことに気づいている。ファンは自分たちが『カモ』にされていることをわかって、そのウソに乗ることを楽しんでいる」と言う。すなわち、企業(組織)にとってファンはあくまで金銭的な恩恵を与えてくれる存在であるとはいえ、それを収益につなげる行為にはかなりの慎重さが求められるということだ。

 また、「変化を嫌うファンの嗜好と、企業として必要なことが相反する場合もある」というのも重要な視点であろう。企業の側としては、よりいっそう変化の激しさを増す経営環境において、何も変わらないことは死につながる。だが、自社のオブジェクトのファンが熱狂的であるほど、その行為は批判の対象となる(本書にあるメイカーズマークの事例はその典型だ)。

 企業は、安易なマーケティングやブランディングを実行して、熱心なファンを裏切るようなことは避けなければならない。ただし、無償で奉仕していてはビジネスが成り立たないので、裏ではそろばんを弾くしたたかさも求められる。また、持続的な成長を遂げるためには、時に大胆に異を唱えることが重要でもある。それをしなければ、将来の熱狂的なファンを取り逃がしてしまうことも考えられるし、そもそも、真に事業を支えてくれているのは、それほどの思い入れはない純粋な消費者である可能性も高いのだ。

 本書は「企業は熱狂的なファン(コミュニティ)をつくろう」という単純な結論を導くことなく、企業がビジネスという現実の中に身を置きながらも、プレイヤーとファンという幻想を絶妙のバランスで保つことの大切さと難しさが示されており、あらゆる業界のビジネスパーソンに示唆を与えてくれるのではないか。