●オズの魔法使いは間違ったモデル

 物語でオズの魔法使いは、カーテンの影に隠れた複雑な機械を操って王国を治めている。自分自身をオズの魔法使いに見立てる経営幹部も、少なくないかもしれない。「AIの技術が数百万ドルの人件費削減を可能にする」というアイデアのとりこになり、「CEOと最小限の精鋭がいる会社が最も優れた企業だ」と考えるようになる可能性がある。

 だが、フェッチ・ロボティクスの創業者兼CEOのメロニー・ワイズは、そうした考え方にクギを刺す。「当社がロボットを世に出すごとに、そのメンテナンスやサービス、ケアをする人が必要になります」。テクノロジーの核心は生産性を高めることであり、従業員数を削減することではないと、彼女は主張する。

 ●人間は戦略的、機械は戦術的

 どんな職種が自動化に最も向いているか、マッキンゼー・アンド・カンパニーは研究を重ねてきた。これまでの研究結果では、仕事がテクニカルになるほど、その仕事はテクノロジーによって遂行可能になると結論づけられそうだ。言い換えれば、機械が得意な分野は戦術の適用に偏っているのだ。

 他方、高度の想像力や創造的な分析、そして戦略的思考が求められる仕事は、自動化がより難しい。マッキンゼーの最近の報告書によれば、「現在利用できるテクノロジーで自動化が極めて難しいのは、人材の管理と育成に関与する活動(自動化の可能性は9%)や、専門知識が必要な意思決定や計画立案、クリエイティブな仕事に関連する活動(同18%)である」

 コンピューターは最適化することに優れているが、目標設定にはそれほど長けていない。また、常識を用いることにも秀でていない。

 ●新テクノロジーとの融合は感情がカギ

 テクノロジーを採用して一部の従業員が去ると、会社に残っている従業員の間に不安が広がる。「次は私だろうか。あとどれくらいの期間、ここでの雇用が確保されるだろうか」と自問するのは、至極当然のことだ。

 ベンチャーキャピタリストのブルース・ギブニーは、こう説明する。「そうは思えないかもしれませんが、職の有無は『実存に関わる』問題です。有意義だと思える仕事はもちろんのこと、どんな仕事でもそれで生活ができなくなると、人は急激な変化を強く要求します。欧州が何度か経験してきたように、すべての革命がよい革命であるとは限りません。職があれば、物質的充足と心の満足の双方が得られます。この2つがなくなると、当然のことながら、感情がひどく害されます」

 賢明な企業リーダーは、AI導入がもたらすトラウマは、次に示す2点にどう対処するかで変わってくることを理解するだろう。

 (1)新テクノロジーを既存のワークフローにどのように組み入れるか 
 (2)新テクノロジーを“敵”と見なす感情にどのように対処するか 

 この両方に取り組まなければ、最も自動化が進んだ職場でさえ、怒りとは言わないまでも、目に見えない不安に足下をすくわれかねないだろう。

 ●従業員にできることを見直そう

 テクノロジーは一部の仕事を担当するようになるだろうが、その仕事に従事していた人に取って代わるものではない。経済学者のジェームス・ベスセンは、「問題は失業者が生み出されていることだ。新しい仕事に就くために必要なスキルと知識を、従業員が身に着けられるようになっていないことだ」と指摘する

 たとえば、オーストラリアでの調査では、銀行の窓口係による仕事の自動化に希望の光が見出された。「窓口係がやっていた多くのタスクがATMに引き継がれた一方、それによって、既存の従業員がスキルアップし、より幅広い金融サービスを販売するチャンスが生まれた」

 さらに同報告書によれば、ビッグデータ分析、意思決定サポートアナリスト、遠隔操作車両オペレーター、カスタマー・エクスペリエンスの専門家、個別予防衛生ヘルパー、そして「なりすまし犯罪や風評被害、SNS上のいじめやハラスメント、インターネット詐欺などのオンライン・リスク管理」をするオンライン・シャペロンの分野で、新たな仕事のチャンスが広がりつつあるという。

 そのような仕事は、あなたの会社において、現在の事業領域には該当しないかもしれない。だが、従業員の成り立ちと特徴を見直す時間を有効活用する方法は、他にもあるはずだ。そのような新しい思考法から、新しい人材育成のアジェンダが生まれるだろう。

 そこで焦点を当てるべきは、人間に生来備わっている能力だ。テクノロジーと人間が共存共栄できるような、新たな成功戦略を策定することを可能にする、人間の能力である。

 前述のロボットビジネス起業家のメロニー・ワイズが強調するように、テクノロジーそれ自体は単なるツールにすぎず、このツールをビジネスリーダーたちが最適と考える方法で使うのだ。AIなど新しいテクノロジーを使って人間の仕事の代わりをさせてもいいし、人間の仕事を補強させてもいい。

「あなたのコンピューターが、あなたを失業させるわけではありません。あなたのロボットが、あなたを失業させるわけでもありません」とワイズは言う。「こうしたテクノロジーを持つ企業が社会的な方針を打ち出すのであり、全従業員を変えるような社会的方針を定めるべきなのです」


HBR.ORG原文: The Future of Human Work Is Imagination, Creativity, and Strategy, January 18, 2018.

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ジョセフ・ピストルイ(Joseph Pistrui)
スペイン・マドリードにあるIEビジネススクール教授。起業家経営学を担当。グローバルなネクストセンシング・プロジェクトのリーダーも務める。