医師の負担を軽減し、いまの医療レベルを超えていく

――開発の進捗はいかがですか。国の規制改革の工程表では、2020年代に医師の診断を補助するAIの普及をうたっていますが。

 数年後には、患者さんが選ぶ、選ばないにかかわらず、AIは医師が使っていているツールになっていると思います。現時点では、世界的に見ても医療機器として承認を得たAIはほとんどありませんが、研究開発が加速しているので、3年もすればさまざまなアプリケーションが医療機器として使える状況になり、医師側においても、画像診断に関するアクセプタンスは大きくなっているでしょう。

 現在、我々は国立がん研究センターや東京大学医学部付属病院など20の医療機関と密接に連携し、研究開発を進めています。海外ではドイツのデュースブルグエッセン大学とも現地の行政からバックアップをいただきながら共同研究を行っています。医療画像診断市場でトップの一角を占める米国への展開も注力すべく、今年度中には米国拠点を設け、FDA(米国食品医薬品局)申請も行う予定です。

――2016年にはベンチャーキャピタルから出資も受けましたが、会社組織としての課題は。

 AI企業はいま、良くも悪くも引っ張りだこで、受託事業を行っていれば苦労しない状況です。ただそれは時間の問題で、数年後には自社でアプリケーションを持っているところが競争に勝つ、そんな領域になっていると思います。医療機器の承認には時間もかかり、それまでの投資も必要ですが、我々のミッションはあくまでも、ライフサイエンスの領域で革新を起こすことですから、自社製品の開発をメインに注力していきたいと考えています。資金調達の目的はその一環でもあります。

――ライフサイエンスの未来について伺います。AIやデジタル技術で、医療はどのように変わりますか。

 2つあります。1つは、医師の負担を減らす方向でのAI活用です。負担を減らしながら、誤診のないよう精度を上げていくようにサポートしていく。研修医でもベテランと同等に診断できるよう底上げを図ることが可能です。さらには直接的な診断だけでなく、レポート作成も含めた自動化支援を行うことで、医師のワークフローの改善が期待できます。

 もう1つは、いまの医療レベルを超えるところにAIを活用することです。画像データだけでなく、ゲノム、血液、日々のヘルスデータなどを統合し、ゼロベースから学習させることによって、人間の情報処理能力の限界を超えた、新たな知見が獲得できるようになるかもしれません。予防医学の観点から早期発見ができたり、治療の精度が上がるといったことも期待されます。

 理想をいえば、AIを活用した医療を患者さんが求める時代が来ることが重要だと考えています。これまで私たちは医師に頼りすぎていました。医師とはいえ人間ですから当然ミスはします。その前提で、AIなどの補助的ツールを使って、医療レベルを向上し、全体最適を図る。患者さん側もAIを理解して、を導入している病院を自ら選ぶようなリテラシーを身につければ、 病院任せの医療から、患者さん主体の医療に変わっていくのではないでしょうか。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)