放射線科医の作業量は3倍に増えたが、医師の数は減少

――開発中の医療画像診断技術「EIRL(エイル)」とは、どのようなものですか。

 医療現場で目下、課題となっているのが高精細な医療画像の急増です。X線、CT、MRI、内視鏡、顕微鏡などのあらゆる撮像媒体で、データは高精細になり、動画も簡単に撮れるようになりました。スマホであれば、「思い出が増えたね」で済みますが、医師の場合は、それらをしっかり見ないといけません。放射線科医や画像診断を行う医師の作業量は過去10年で約3倍に増えたともいわれますが、医師の数は横ばいであり、代替診断手法の必要性が強く叫ばれています。

 これは日本が世界で先陣を切って取り組むべき課題です。というのも、CTやMRIの人口当たりの導入率は世界1位で、数が多いだけでなく、その分、研究も進んでいるからです。画像データの量もさることながら、良質なデータが日本では得られやすいことから、日本で開発した画像診断技術がそのまま世界に持って行けます。日本の優位性をもって世界に発信できる数少ない分野の一つであり、恵まれたチャンスが我々にはあると認識しています。

 たとえば脳動脈瘤の診断では、脳のMRA画像を撮影し、動脈にある小さなこぶを見ていくのですが、人がやるとかなり神経を使う作業になります。「EIRL」では、瞬時に、病変箇所の候補点をAIが検出し、サジェスチョンしてくれます。

 AIには、シニアの医師の知見を学習させ、ディープラーニング(深層学習)を活用して、未破裂脳動脈瘤と類似したパターンを検出することで、読影医をサポートします。脳動脈瘤のほか認知症、乳がんや胸部X線、肝臓がんなど10の診断支援の研究開発テーマがあります。内視鏡の動画についても対応しています。

――医師の知見をAIに効率的に学習させるのは困難な作業ですか。

 そもそも100%正解のデータなど存在しません。画像によっては、がんだという医師もいれば、そうではないという医師もいます。判定がきわどいものをどちらにするかは難しい問題です。我々は複数のシニアの専門医にダブルチェック、トリプルチェックをしてもらったものだけを教師データとしています。

 一方でディープラーニングには、一般的に数十万、数百万のデータが必要ですが、トリプルチェックできる良質なデータは何十万件もありませんので、少ないデータ量でも効率的に学習、解析できるような技術が必要になります。これに対しても我々は注力していて、ディープラーニングにデータを学ばせる前の画像処理を行うことによって、数百、数千のデータでも数十万と同等、あるいはそれを上回るくらいの精度が出せるような技術の開発にこだわっています。

 また、CTやMRI装置のメーカーによって画像データにばらつきがあり、単純にこれを学習させただけのAIでは、実用レベルにもっていくのが非常に難しい。どういう画像を組み合わせて学習させると、ロバスト性の高い教師データとなるのか、そこは神経を使うところです。