エコシステム・オーケストレーションで価値生産を主導する

 優れたCXを持続的に高い水準で実現するためには、顧客企業を含む複数のステークホルダーを巻き込んだエコシステムの構築が必要となる。エコシステムの構築に際しては二つの視点が重要だ。一つは、前述の通り、顧客と、顧客の顧客までを含めた「縦」の関係性を築くことである。そしてもう一つ重要な視点が、「横」の関係性構築である。

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出所:アクセンチュア

 企業は、顧客に対して実現するCXを自社が保有するケイパビリティによって限定すべきではない。まずは顧客企業を深く理解し、顧客企業にとってのビジネス上の成果を見極める。そのうえで顧客が求める成果の実現に向けて必要な価値を社内外問わず調達し、一連のCXとして組み上げることが必要となる。CXを中心に事業を再構築することが求められるのである。 企業間のパートナリングによるエコシステム構築の動きはすでに進みつつある。事実、36%の企業は2年前と比べて2倍以上のパートナーと協業するようになっていると答えている。*5

 シーメンスはIoTプラットフォームの「MindSphere」*6で、エコシステムの構築を目指している。MindSphereはIoT機器のオペレーションシステムであり、接続した機器の制御機能や稼働データの分析機能を提供する。オープン規格の採用によって、接続可能な機器はシーメンス製造製品に限らず、ほかの製造元の機器にも対応している。

 MindSphereの提供価値の最大化に向けてシーメンスが目指しているのが、MindSphere上で利用できるアプリケーションを開発するパートナーとの関係性の強化である。顧客企業の利便性を見据えつつ、パートナー企業に対してAPIを公開し、開発ツール・支援の提供も行っている。自社だけで価値開発を行うのではなく、「横」の関係性を構築しつつ、顧客企業に対する優れた顧客体験の提供に取り組んでいる。また同時に、パートナー企業に対しても利益獲得の機会を提供し、エコシステムに参加するすべてのステークホルダーの共存・共栄を図っている。

 多様なステークホルダーと「縦」と「横」の関係性を築きつつ、顧客企業に対する優れたCXの実現を主導していくためにB2B企業はどうあるべきか。プラットフォーマーから「エコシステム・オーケストレーター」への進化が、その一つの可能性である。多様なステークホルダーが参画するエコシステムの構築に向けては、もはや場(=プラットフォーム)を用意するだけでは不十分である。エコシステムの「指揮者」として自ら積極的に価値生産に関わり、主導していかなくてはならない。

 エコシステム・オーケストレーターであるためには、主に3つのケイパビリティが求められる。

1. 顧客が求める価値の洞察力

 顧客企業の経営・事業における課題や求められている価値を洞察する能力が必要となる。そのためには、B2C2Bの視点で顧客の顧客を理解することが重要である。より深い洞察に向けては、現在の取引先担当者の声のみを鵜呑みにせず、顧客企業が置かれているビジネス状況を冷静に見極めたうえで、一段高い視座から論点の見極めを図ることが求められる。

2. 必要な支援の設計・提供力

 エコシステムに参加するパートナー企業による価値の創出を支援するための一連の仕組みを設計し、提供する能力が求められる。ある意味では、パートナー企業を対象にCXを最適化する能力であるともいえる。顧客、顧客の顧客のみならず、パートナーまで含めて、エコシステムのなかで十分な利益獲得ができる全体のスキームを設計することが必要となる。

3. データのマネジメント力

 エコシステムにおいてはデータが新たな通貨となる。エコシステム内でどのようなデータを、どのようなルールで蓄積し、共有するかは重要な論点である。データは新たな価値創出に向けた可能性であると同時に大きなリスク要因でもある。セキュリティ観点からも十分な備えをし、エコシステムの信頼性を担保する必要がある。

 エコシステム構築の本来の目的は顧客に対する優れたCXの提供である。エコシステムに参加するすべてのステークホルダーの利益を見据えつつ、指揮者としてエコシステムを主導し、優れたCXを実現していくことが求められている。