理論を道具として使う

 本書で取り上げられているわかりやすい例として、官僚制組織について触れたい。「お役所仕事」や「官僚的だ」という言葉は、あまりよい意味でつかわれることはない。しかし、官僚制組織は、専門化された職務とヒエラルキー構造、文書主義などがあることで、リーダーが代わっても安定して、永続的に動くことが可能である。つまり、官僚制組織は本来、組織目標を永続的に果たすためにつくられた、合理的な組織と言える。

 しかし、組織目標を効果的に達成するための手段として作られた規則が、それは守らなくてはいけないものだという目的になってしまう、「逆機能」が働くことがある。このような状態になれば、組織は環境の変化についていけず、組織目標の達成もおろそかになる。さらに、硬直的な行動が問題を引き起こしてしまっても、組織メンバーはさらに規則を作り、それによって自分たちを守ろうとする――そんな悪循環に陥ってしまうという。

 官僚制に限らず「逆機能」は、おそらく多くの組織に存在するはずである。これらのメカニズムを知っておくことで、今ある制度や規則の表面上の問題だけでなく、その原因にまで目を向けやすくなる。また、組織の構造を変えることが、場合によっては組織目標を達成する上で、別の課題をもたらすのではないかという、気付きも得られる。

 簡単なものを紹介したが、本書で取り上げるのは組織の基本的な構造やメカニズムだけではない。組織内のメンバーを有効に使うことで、組織の力を大きくする視点、モチベーションやキャリアの視点など、組織論の基本的な理論から、最新の知見まで、大小様々な視点を体系的に提示している。

 メカニズムや理論を知ることは、道具を一つ手に入れるようなものだ。誰かの経験則に基づく成功法則などは、参考になる部分も多いが、実際に再現するのが難しい。理論は現実やデータと照らし合わせて、積み重ねられてきた真理に近いものである。それを一つの道標として、自らの組織に照らし合わせて考えることで、改めて今「組織にどのような変化が必要なのか」という、目指すべき方向が見えてくる。本書はビジネスパーソンが持つべき知識を得るための、始めの教科書として薦めたい。