機器や設備単位で
電気を取引できる時代に

――従来、電気やガスは建物単位の契約でしたが、今後は機器単位の計量、課金もラクにできるようになるらしいですね。これによっても何か変化は起きますか。

 デジタル技術の進展によって、電力の計量や課金にかかるコストが大幅に下がり、ようやく機器や設備単位で取引できる時代がやってきつつあります。そうなると、やはり小売事業者の必要性が薄れてきます。

 例えば、冷蔵庫のように1日中ほぼ一定の電力を使い続ける機器は、安く電気を調達することができるようになります。実際今でも、半導体工場や冷凍倉庫など同じ量の電気を使い続けるところは、安い価格で電気を購入できています。

 ですから、前述したような各家庭の冷蔵庫を束ねるようなサービスを提供する事業者は、ベース電源と呼ばれる発電設備を持つ事業者と直接契約し、必要な電気を安く調達することができるようになります。発電会社としても各家庭ではなく、その事業者と契約すれば済むわけですから、間に小売業者を入れる必要がなくなってくるのです。

分散化によって電力は
双方向の産業に転換する

――では、もう1つの「分散化」はどんな変革をもたらすのでしょう?

 分散化とは、従来の火力発電所や原子力発電所などの大規模系統発電(BER)を中心とした電力システムに加え、太陽光発電や風力発電などの小規模な分散型電源(DER)や蓄電技術(Storage)が広く普及していくことをいいます。

 これまでは、BERで大量の電気を発電し、遠距離送電により消費地まで届けるというシステムでした。電力会社が提供している価値は3つあります。1つはエネルギーとしての電気の価値、2つめは需要に応じられる発電所を、発電できる状態で確保しておく価値、最後は需給の変動に柔軟に対応して電気の品質(周波数・電圧など)を維持する価値です。

 2つめと3つめの価値がどれだけ重要なことかは、東日本大震災後の輪番停電をイメージするとわかりやすいでしょう。原子力発電所の事故で発電能力が足りなくなった結果、一定地域ごとに電力供給を順次停止・再開させることで、ブラックアウト(系統全体のダウン)を回避しなければなりませんでした。もしブラックアウトになってしまうと、送電の復旧に数日かかってしまい、社会的な損失がとても大きくなります。

 このように需要と供給のバランスを維持することは極めて大切なのですが、今後増加が見込まれるDERは、発電量が気象条件によって決まるため、生産調整を行うことができません。つまり、供給サイドで、需要と供給のバランスを維持することが難しくなります。

 そこで期待されるのが、デジタル化が進展する需要サイドの調整です。需要と供給のバランスを維持するために、例えば、ある時間帯に使っていた100の電力量を50に減らしたり、150に増やしたりするといったことがデジタル化によって、以前よりもずっと簡単にできるようになりました。需要サイドで実質的な"生産調整"ができるようになったのです。

 これまで、私たちは調整力を提供していた発電会社に、その対価を払ってきたわけですが、今後はユーザー側が調整力を提供し、それに対して対価が支払われる。そういう世界がやってきます。

 そうなると、発電会社がつくった電力を一方的に川下に売るという産業構造から、電力システムの信頼性を維持するために必要な価値を発電会社も提供するし、電気を使っているユーザー側も提供するようになり、双方向の産業構造に変換していきます。これが「分散化」がもたらす大きな変化です。