社会、環境、ガバナンスに
目配りする企業活動へ

 世界は協調して新しい未来を作っていこうという流れにある。そういうトレンドに対する感度が低いということですね。日本にも何か良い動きはありませんか。

『2030年 未来への選択』(日本経済新聞出版社)

 社会の変化は、これを形作るアクターに左右されます。社会の行方を動かすアクターとしては、個人と親密圏が基本ですが、これらが関わる中間レベルでコミュニティと企業があります。これらの変化の上に、国家やグローバル社会の変化が出てきます。日本では、二つの変化が進行しているようです。

 第一には、高度成長時代には大都市の繁栄を支える縁の下の力持ち的だった地方の自己認識が変わってきた。地方の過疎化は確かに進んでいますが、最近では、Iターン、Jターン、Uターン等、外部からの知恵や人材が入りやすくなっている。そこに、新たな何かを生み出そうというコミュニティ形成の機運があります。ICT革命がこの水平型社会への変貌を支えています。

 この点、東日本大震災後、地域に根ざした活動に多くの人が携わるようになりました。これは、大いに希望が持てます。これらの地域活動には、地域レベルの企業作りや、起業、地方と大都市を結ぶ企業や直販のネットワークもあります。地方も中央にぶら下がっているだけでは先がなく、自立が必要だ、という認識ですね。この認識の転換から人が集まります。これは大きな変化です。国内市場を自ら広げる動きにほかなりません。

 第二に、日本企業もグローバル化の担い手として、おおいに世界に進出するなかで、欧米やアジアのESGに否応なしに触れざるを得ない。欧米では大手の投資機関がESG考慮を重視する方向ですので、日本の投資機関も、これからは米国債を買うばかりでなく、自分の頭で投資先を考える方向に動かざるを得ないでしょう。こうして、日本の法人資本主義に「社会」「ガバナンス」という新しい風が吹いてくる可能性は十分ある。また、そうした風に敏感な起業者が、新興国出身も加えて、参入してくる可能性もあるでしょう。日本社会の多文化に対する認識を含めて、開放性が問われる時代なのです。

 未来の行方は国際機関や国や大企業だけがそのカギを握っているのではなく、集団を形成する個々人が自分の頭で考えた自律的な活動次第で、決まるということですね。

 本書では現状の進行を座視するならば、それは、グローバル社会の破綻につながるだろうことを指摘しました。それを避けるための未来は、私たちひとりひとりの行動、価値観の変化から始まります。その影響は、企業の分野でも既に始まっていると思います。アジアに目を転じると、新興国もまた、先進国のマネー流入への依存、環境悪化、国内市場拡大の課題等、2030年代に向けての新たな課題に直面しています。今まで工業化の下積みだった農村の動向も注目の的です。こうした激動の時代に、企業や地域コミュニティの再生や革新が、日本やアジアで新しい地域活力につながる可能性は十分高いと見ています。

 大企業もまた、ESG投資のような世界や地域の潮流に呼応することに加えて、一般市民や地域住民など、これまで従来のガバナンスでは「お客様」的存在だったステークホルダー、また「使い捨て」人材として扱ってきた従業員の立場と向き合い、社会に開いていくこと、そして関わっていくことを、真剣に考えるべきではないでしょうか。企業活動は本来、平和を必要とします。しかし、アジアでは大国間の緊張から核戦争の一触即発の恐れまで高まっています。本書で警告した方向に、残念ながら世の中が動いているようです。こうした時期に、社会、環境、ガバナンスへの目配りから企業活動が地域で展開することは、疑いもなく、世界とアジアの平和を強める方向に作用すると考えています。