スターバックスの例を見てみよう。CEOのハワード・シュルツは、単なるコーヒーの販売を超えた、非常に野心的な企業目標を掲げた。スターバックスを、家でも職場でもない、懇親のための「第3の居場所」にしようという望みだ。

 世界中どこのスターバックスに行っても、常に変わらぬ居心地のよさと歓迎の雰囲気を感じるだろう。だが彼は、スタッフにただ「暖かく親しみを持って接するように」と指示するだけで、そこにたどり着いたわけではない。

 この約束をスターバックスが果たすことができているのは、それが自社独自のケイパビリティにしっかりと結びついているからだ。スターバックス店舗がかもし出す雰囲気は、単にレイアウトと装飾によるものではない。カウンターの向こうのスタッフが、自分の仕事が共通目標にどうフィットするのかを理解し、台本などなくても素晴らしい物事を成し遂げる方法を認識しているからである。

 スターバックスは長年にわたり、関係性重視、従業員第一のアプローチを育むためのケイパビリティを築いてきた。シュルツの次の言葉は有名だ。

「経営者や店主、カウンターの向こうの店員が、そこで扱っている商品をはたして気に入っているのか。(どんな種類の店であれ)客は中に足を踏み入れれば、それを感じ取れるものです。今日デパートを訪れる人は、不慣れな店員と話すことになるかもしれません。その店員は、昨日は掃除機を売っていたのに、いまは服飾品売場にいるのです。これではうまくいくはずがありません」

 シュルツは、スターバックスがそうならないよう万全を期した。同社の働き手は、従業員ではなく「パートナー」と呼ばれ、(米国では)パートタイムのスタッフでもストック・オプションを付与され、健康保険に加入できる。世界的な金融危機の真っただ中、他社ができうる限り人材コストを切り詰めるなかで、スターバックスはスタッフのトレーニングに投資した。コーヒーのテイスティングや、従業員に高等教育機関での履修後に単位を付与するコースなどだ。

 従業員にとどまらず、スターバックスで客が目にし、経験するものの多くが、店内で流れる音楽から選ばれた家具にいたるまで、同社のミッションを達成するよう考えつくされている。トイレさえも戦略的だ。客に「第3の居場所」で時間を過ごしてもらうための一端を担っているのだから。

 ハワード・シュルツのようなリーダーは、ビジョナリーと実行者、両方の能力を備えているだけではない。2つの能力の結びつきを非常に重要視している。実際、それらを表裏一体であると考えている。なぜなら、大胆なビジョンに必要なのは、非常に野心的な目標と、そこに到達するためのよく練られた実行プロセス、この両方だからだ。

 企業の差別化が非常に困難な現在、このことは以前にもまして重要だ。差別化には、より革新的な思考と、きわめて特殊な分野の専門知識の活用がますます必要となっている(アップルの優れたデザイン力がその例だ。ジョブズ以前は、ほとんどのハイテク企業でこのケイパビリティの優先順位は高くなかった)。