ステップ1:抵抗を想定しておく

 イノベーションの動機の1つは、社内で(特に経営陣から)たびたび発せられる、独創的なアイデアへの強い要望だ。製品であれ、オペレーションやマーケティングであれ、他とは違う戦略、戦術、視点を引き出すべく、「既存の枠に囚われずに考えろ」という指示が至る所で飛び交っている。

 しかし、ほとんどの場合、イノベーションを支えるために必要なリソースは、すでに既存の課題に投入されていたり、確保されたりしている。分配済みのリソースの大部分を新しいアイデアに回したら、既存プロジェクトの成功機会を奪いかねない。

 このジレンマが、新しいアイデアに対する抵抗や無関心をもたらすのだ。これは、そのアイデアを大いに気に入った人々でも例外ではない。なぜなら、すでに自分が関わっているプロジェクトへの支援を、性急な判断でやめるわけにはいかないからである。

 デニースが事業部門のリーダーたちに効率化のアイデアを提案した際に生じたのは、まさにこの問題である。彼らは、取引コストが高すぎるとの理由を挙げ(部門ごとに異なる部品番号の統合など)、提案を即座に却下。アイデアは、そもそも否定される運命だったかに見えた。

 結局、どんなに有望なイノベーションでも、リーダーたちに利益を出すことが課せられている、現行のプロジェクトや投資の成功を阻むおそれがあれば、受け入れられる可能性は低いのだ。

 しかしその後、デニースが自分のアイデアを会社の既存の課題とより明確に結びつけたとき、彼女の案は息を吹き返した。

 立案者は、人々が何に反対するかをわかっていれば、イノベーションを戦略的に位置づけることができる。新しくて創造的だが、組織の既存の課題から逸脱したり、リソースを吸い上げたりするものではない、と示せる。すなわち、アイデアを「程よく新鮮」なものにできるのだ。このアプローチを使えば、新しいアイデアを受け入れることによる直接的なメリットを、支持者に提供できる。

 ステップ2:政治的動機の仮面をはぐ

 第2のステップは、アイデアに対して表立って述べられている反対意見の裏にある、隠れた真の動機を見出すことだ。

 意思決定プロセスに政治的な駆け引きが絡んでいる場合、社内の人々は、イノベーションに反対する本当の理由をつまびらかにしていないかもしれない。その代わりに、周囲に受けのいい理由、つまり体裁のよい「仮面」を見せているにすぎない。それらは多くの場合、コストや時間、複雑性など、実施上の懸案事項として挙げられるが、個人的な利害を明確に示したものではない。

 デニースの場合、事業部門の幹部らが挙げた表向きの反対理由は、発生する取引コストが高すぎる可能性だ。この指摘自体は妥当であるように響き、たしかに彼女のイノベーションを成功させるうえで解決しなければならない問題でもあった。だがデニースは、取引コストの問題に加え、対処すべき隠れた政治的な動機があるのではないかと推測した。

 第1に、これは本人も認識していたことだが、彼女のイノベーティブな取り組みはコンセプトがしっかりしていたものの、信頼できる実績データが欠けていた。第2に、部門長らが在庫を抱え込んでいるのは、自分たちの部署で在庫不足や出荷遅れが生じないようにするためだと彼女は気づいた(すなわち、在庫が底をついた他部署に自分たちの在庫を回さないことも意味する)。これは、会社全体で見るとコスト高な方法である。

 そこで彼女は、次のように推論した。いくつかの部門は、現在の「自部門優先」という動機があるため、会社全体のパフォーマンス向上によって得られる間接的メリットの価値は低いと見なしているのではないか、と。

 隠れた動機をめぐって相手と直接対立するのは、得策とは言えないだろう。その代わりにデニースは、経営陣が会社の総資産利益率(ROA)を高めるための新戦略を発表した際に(在庫も資産の1つである)、政治的な仮面を暴こうと試みた。この変化に乗じて、イノベーションを推し進めるチャンスを見出したのである。

 ただし、そのためには、みずからの人的ネットワークを広げる必要があった。

 ステップ3:適切な擁護者を見つける

 資産利益率向上という新たな号令を実現するには、理論上は、事業部門間の協力が必要なはずだ。しかし、ほとんどの部門の幹部には、デニースの計画を採用する十分な動機がなかった。また、彼女には十分な影響力もなかった。

 この状況が動いたのは、デニースが自分のアイデアを擁護してくれる適任者を見つけたときだ。

 具体的に言うと、イノベーションをめぐる駆け引き(イノベーションが生む勝者と敗者によって引き起こされる)を認識したデニースは、自案の採用によって勝者となるであろう、上級幹部を見つけなければならなかった。彼女が探し出した人物は、物流・情報システムのディレクターのプラメッシュ(仮名)だった。

 プラメッシュは、さまざまな事業部門で使われている多様な在庫追跡システムに対し、在庫の移動を迅速かつ正確にするパッチを考案した。これにより、デニースのイノベーションはコスト高だという表向きの苦情を抑えることができた。また、プラメッシュは会社全体のパフォーマンスに責任を負う立場であり、全社の利益向上に前向きだったので、政治的な問題も解決してくれた。

 各事業部門は、全社利益よりも各自の利益を優先していた。デニースは、自分の案は会社全体の利益に真っ先につながると強調することでプラメッシュを巻き込んだのである。

 しかし、経営幹部の支援を得てもなお、デニースが自分のアイデアを思う存分に実施するには、もう1つ解決しなければならない問題があった。それは、このイノベーションの価値に関する「社会的証明」を提示することだ。

 ステップ4:社会的証明を確保する

 ほとんどのイノベーションは似たようなジレンマに直面する。有効性を示す十分な証拠なくしてアイデアは支持されないが、データに基づいた証拠を得るには、何らかの形でそのアイデアを実行に移さなければならない、という問題である。

 このジレンマを解消するには、社会的証明という別の形で、アイデアの有効性を示すことだ。その目標は、プロジェクトの結果に関する確かなデータを集めることではない。このイノベーションは取り組む価値があると信じてくれる、必要最低限の人々を確保することだ。その人数が集まれば、さらに多くの人々がアイデアをすすんで支持してくれるだろう。

 洗濯洗剤の効果から気候変動の危険性まで、あらゆる物事について人々が考えを形成する背後には、社会的証明が作用している。たとえ事実が容易に確認できる場合でも――お湯での洗剤の溶け具合や、地球の気温上昇率など――人々はみずからの考えを形成するうえで、社会的証明という枠組みを利用している。たいていの場合、自分が信頼する人々のうち十分な人数が何かを信じていれば、自分もそれに倣おうと思うものなのだ。

 イノベーションにも同じことが言える。

 デニースはプラメッシュの助力を借りながら、より多くの同僚に効率化イノベーションを支持してもらえるよう働きかけた。ここには、部門長とつながりのある面々も含まれる。具体的なデータがなくても、この社会的証明が各部門の幹部を揺り動かすことになり、彼女のアイデアは社に採用され、初期段階から大幅なコスト削減につながったのである。

 イノベーションをめぐる政治的な駆け引きを解決することは、イノベーションの策定と同じか、それ以上に難しいことも往々にしてある。しかし、戦略的に手順を追って問題にアプローチすれば、アイデアと実行の狭間にある、大きな溝を効果的に埋められるだろう。


HBR.ORG原文:How to Navigate the Politics of an Innovation Project,  November 30, 2017.

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ブライアン・ウッツィ(Brian Uzzi)
ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメントのリチャード・L・トーマス記念講座教授。リーダーシップと組織変革を専門とする。ノースウェスタン・インスティテュート・オン・コンプレックス・システムズ(NICO)の共同ディレクターも務める。