トランプへの根強い支持が物語る、
有権者の変遷

 トランプの選挙演説におけるこれら諸グループの位置づけは、過去数十年間に、白人労働者階級がこれら同じグループに対して抱いてきた認識とは大きく異なるという点で、特に注目に値する。

 ミシェルは著書The Dignity of Working Men(未訳)のなかで、1990年代初頭、ニューヨーク郊外で暮らす労働者階級の米国人に詳細な聞き取り調査を行い、彼らがさまざまなグループに対して設ける境界線について調べている。そこで頻繁に聞かれたのは、「アフリカ系米国人と貧困層は、自立心と労働倫理に欠ける」という指摘だ。しかし、移民についての言及はほとんどなかった。

 ではなぜ、現在は違うのだろうか。特に注目に値する2つの要因がある。

 第1に、1990年代に福祉改革法案(特に1996年の「個人責任と就労機会調停法〈PRWORA〉」)が可決され、2008年には経済危機が起きてからというもの、労働者階級は貧困層のことを以前ほど気に留めなくなった(PRWORAは、失業者が国家から援助を受ける要件として就労を義務づけた)。代わりに、外国から「我々の仕事を奪いに来た」人々に対する懸念のほうが高まったのだ。

 第2に、2001年9月11日の同時多発テロ後の不安が、労働者階級の愛国心をいっそうあおり、それが社会的地位と自尊心の拠り所となった。この傾向は特に、「責任ある扶養者・勤労者」としての自尊心が経済の衰退によって脅かされるなかで、ますます高まっていく。

 この愛国心が、2008年の経済危機と相まって、排外主義と反移民感情をいっそう強めたのだ。したがってトランプの選挙演説は、2016年における米白人労働者階級の苦境をふまえ、彼らの共感を呼ぶよう完璧に計算されていたのである。

 これらの演説が共感を呼んだのは、労働組合の影響力の低下によるところもあるだろう。組合は、労働者階級にとっての重要な利害がどこに存在するかを示せなくなり、帰属意識と「労働の誇り」をつなぎ留めておくこともできず、文化的影響力を失ってしまった。

 トランプはこれら労働者に対し、組合の代わりとなる枠組みを提供した。すなわち、「衰えゆく米国」という文脈のなかで、なぜ彼らの経済的地位が落ち込んでいるのかを説明し、高まる社会的疎外感に対抗する手立てを示したのだ(「メリークリスマス」の擁護がその一例だ)。

 労働者階級の経済的地位は低いままであり、社会的地位はさらに低下している。この苦境にトランプの弁舌が共鳴し続けているという事実こそ、彼に対する労働者階級の支持が根強い大きな理由であろう。

 米国のメディアは、政治的エコーチャンバー(同じ考えを持つ人々による閉鎖的な環境)に向けて報道する傾向を強めている。この現状下で労働者階級をいかにして引き付けるかは、今日のリベラルにとって最大の難題であり続けている。優れたマーケターとして知られるトランプは、それが成就しないほうに賭け、勝っているということだろう。


HBR.ORG原文:What Trump’s Campaign Speeches Show About His Lasting Appeal to the White Working Class  November 08, 2017

■こちらの記事もおすすめします
トランプ勝利の必然:「白人労働者階級」の怒りを直視せよ
トランプ時代のグローバル戦略
無関心階級の台頭:米国はこうして「チェンジ」を諦めた

 

ミシェル・ラモン(Michele Lamont)
ハーバード大学ロバート I. ゴールドマン記念欧州学講座教授。社会学、アフリカおよびアフリカ系アメリカ学の教授も務める。同校ウェザーヘッド国際関係センターのディレクター。カナダ先端研究機構のサクセスフル・ソサイエティーズ・プログラムの共同ディレクター。米国社会学会の元会長。2017年にエラスムス賞を受賞。

ボユン・パク(Bo Yun Park)
ハーバード大学の社会学博士課程学生。主な研究対象は政治社会学と文化社会学との交わり。

エレナ・アヤラ・ウルタド(Elena Ayala-Hurtado)
ハーバード大学社会学部の博士課程学生。