トランプのレトリックが物語る
コミュニケーション・パターン

 トランプ演説の分析を通じ、彼がいまも用いている、弁論術を支える3つの柱を特定できた。

 1.支持基盤の非大卒白人労働者に対して「倫理面での許し」を示す

 トランプの選挙演説では「労働者」という言葉が、他のどの社会的カテゴリーへの言及よりも頻繁に出てくる(「寄付者」を除く)。それと同時に、その使われ方は非常に好意的であった。そして最も重要なこととして、トランプは労働者階級が抱く社会的地位の低下という不安に対し、「あなたたちが悪いのではない」という許しによって応じた。

 本稿筆者の1人(ミシェル)が以前の研究で明らかにしているが、労働者階級の白人・黒人ともに大事にしている倫理的価値観として、最も顕著な3つは、「勤勉に働くこと」「責任を負うこと」「家族を扶養すること」である。したがって労働者階級の多くにとって、失業あるいは正規雇用に就けていないことは、経済面だけでなく倫理観の面でも大きな痛手だ。トランプの弁舌は、この罪悪感を和らげたのである。

 より具体的には、彼はグローバル化を産業空洞化の原因として、繰り返し非難した。そうすることで、労働者階級の自己認識――「自分は責任感ある勤労者であり、みずからの落ち度ではないのに苦労している」という気持ちを後押しした。また、米国の地方部と都市部における経済的変化の構造的特徴に焦点を当てながら、これら労働者の傷ついた自尊心の回復と経済改善へのカギとして、「雇用、雇用、雇用」の創出を約束した。

 2.わかりやすい「敵」を示す。その定義はすぐに変わる

 失業状態に対する倫理的呵責を労働者から取り除くなかで、トランプはその矛先を一貫して他者に向けてきた。

 最も頻繁に言及された「敵」は、移民労働者だ。トランプは、労働者が米国生まれかどうかについては、はっきりと線引きする一方で、移民の必要書類の有無(合法移民か不法移民か)についてはしばしばぼやかしている。イスラム教徒とシリア難民への言及も、一貫して否定的だ。彼は移民たちが米国人労働者から仕事を奪っていると明言し、移民が要求している社会保障制度などの恩恵は、そのために納税してきた米国民にこそ与えられるべきだとした。

 トランプは、これらのグループをスケープゴートとすることで、「自分たちが米国社会の大黒柱である」という労働者階級の自己認識をいま一度強固にした。同時に、移民を「脆弱な労働市場における、労働者の最大の競争相手」という言い方でおとしめた。

 彼はまた、労働者階級の怒りの矛先を既存の有力政治家(特に民主党候補ヒラリー・クリントン)にも向け、米国経済を守れなかった者たちとした。

 最近では、トランプは経済よりも文化面のメッセージを強調している。たとえば、宗教に無関係な「ハッピーホリデーズ」ではなく、「メリークリスマス」と祈る伝統を擁護。また、NFLで黒人への警察官の暴力に対する抗議として、国歌斉唱中に地面に膝をついた選手を非難した。

 これも、トランプが特定のグループについて線引きをする方法の1つだ。たとえば、「黒人が多くを占めるNFL選手」対「愛国的な白人労働者階級が多いNFLファン」の争い、という構図を仕掛けるのだ。このような境界画定作業は、当たり障りのない時候の挨拶をも、不穏な政治的メッセージへと変えてしまう。

 トランプはまた、グループ間の境界の線引き、再定義、曖昧化を本能的に行うことで、特定のグループを「包摂し、同時におとしめる」ことができる。たとえば、都市部のスラム地区(米国ではたいてい「黒人居住地区」を意味)における犯罪から、「すべての米国人」を守る必要性を頻繁に訴えている。

 すでに指摘されているように、ここには言外の意味がある。あるグループを明示的に「犯罪から守る価値がある人々」として含めながら、同時にその同じグループを、暗示的に「犯罪の原因」としておとしめているのだ。

 就任以来、トランプは少し違った境界融和戦略を用いている。バージニア州シャーロッツビルでの抗議運動中、白人至上主義者の運転する車が群衆に突入して、1人が死亡する事態になった際、彼は「多くの立場からの」暴力を非難した。白人至上主義者と、彼らに抗議して行進する人種差別反対者との境界を融和するやり方だ。そうすることで、白人至上主義者を正当化するとともに、人種差別反対者の側につくのを避けようと図ったのかもしれない。

 3.階級で共有されている特定の価値観を強調する

 前述したように、白人労働者階級に顕著な倫理的価値観は「勤勉、責任、扶養」だ。筆者ミシェルは同じ研究のなかで、それらに次ぐ重要な価値観として「家族を守ること、誠実であること、率直であること」を見出している(著書Money, Morals and Manners(未訳)のなかで示しているが、専門職階級では、これらもしばしば重視されるものの、より重要なのは自己実現、チームワーク、衝突の回避などである)。

 トランプは選挙演説で、労働者階級で共有されている価値観に強く訴えているが、その際によく用いる文脈は「危機にある米国」だ。たとえば、移民、イスラム教徒、難民を、女性と子どもの安全と幸福に対する直接的な脅威として位置づけたことも多い。特に個人の自由やその他の人権の面で、イスラムによる脅威から女性と子どもを守る必要があると言及している。また、労働者はLGBTQの人々をイスラムの不寛容から守る必要がある、とも繰り返し述べている。

 こうして、白人男性労働者の男らしさと、扶養者・保護者としての役割(彼らの自尊心の拠り所の一部)を際立たせたのである。トランプはまた、アフリカ系およびヒスパニック系の米国人について、「仕事と安全をグローバル化の脅威から守る必要のある米国民」の典型として表現している。