●何が世論を変えたのか

 これには2つの要素が影響している。1つは、前大統領パク・クネ(朴槿恵)の弾劾を導いた5ヵ月間にわたる国民の抗議運動だ。もう1つは、もっと根本的な要因に関連している。

 サムスン、そしてより大きな視点で言えば「チェボル(財閥)」は、長きにわたり経済急成長の原動力であった。しかし、財閥から生じるトリクルダウン効果については、懐疑的な見方が増えている。

 たとえば、2017年に韓国の30大財閥の利益は前年から48%上昇したが、これらの企業に雇用された労働者数は2017年前半で0.4%減少した。サムスンの営業利益は128%(61億2000万ドル)増大したが、一方で同社の従業員数は横ばいだ。このため、サムスンの利益は国の利益に必ずしもつながっていないと信じ始める人が増えている。

●イ・ジェヨンのケースは父親とどう違うのか

 第1に、韓国の現大統領ムン・ジェイン(文在寅)は、選挙運動期間中に、有罪判決を下された大物を赦免しないと公約した。

 加えて、司法側の姿勢も通例とは違う。私と同僚は、財閥関連の被告に対して寛大な措置が採られてきたのはなぜかを調査した。韓国の大物ホワイトカラー犯罪者らに対する252件の有罪判決を調べた結果、寛大さが生じる理由は、「厳しい判決を下すと経済全般にリスクが生じうる」という司法側の懸念があるためだとわかった。

 だがイ・ジェヨンに関しては、裁判所が厳罰を躊躇する理由は無きに等しい。なぜなら、サムスン電子は事実上のCEOであるイ・ジェヨンの不在に直面しても、記録的な利益を計上したからだ。したがって、イの有罪判決が覆される見込みは薄い。

●株式市場は有罪判決にどう反応したか

 読者、特に韓国出身でない方にとっては驚きだろうが、イ・ジェヨンへの刑事司法手続きは、サムスンに有利に働いた。イが2月17日に身柄を拘束されたのち、サムスン電子の株価は1672ドルから2168ドルへと30%急上昇した。有罪判決後に株価は1.5%下げたが、その後、回復して4.3%上昇した。

 このような株価上昇を不可解に思われる方もいるかもしれない。支配株主の起訴や有罪判決は、権力の空白を生むため企業価値にマイナスの影響を及ぼすはず、と見るのが普通だろう。

 しかし、データが物語るのはそれとは異なる展開だ。私は、2000年から2014年に生じた18の財閥におけるホワイトカラー犯罪を研究し、刑事司法手続きが財閥の株式価値に及ぼす影響について調べた。その結果、司法手続きは財閥内の系列会社に対して、プラスとマイナス両方の影響を及ぼしていることがわかった。

 支配株主が株式の大部分を所有している系列会社の株価に対しては、司法手続きはプラスに働く。しかし、将来的に急速な成長が見込まれる系列会社の株価に対しては、マイナスの影響が及んでいる。結果として、刑事事件で支配株主が追及されても、市場価値に関しては「グループ全体」への大きな影響はない。つまり、イ・ジェヨンの有罪判決は、投資家にとって災難とも恩恵ともなりうることが示唆される。

 これは理にかなっている。支配株主の有罪判決は、リーダーシップの空白による不確実性を助長するかもしれないが、株主のさらなる不正行為を防止することにもなりうるからだ。

●サムスン全体としては、繁栄は続いているのか

 この質問に答えるうえで知っておくべきは、サムスンの中枢本部である「未来戦略室」が完全に解体され、主要なスタッフが解雇されたという、かつてなかった出来事だ。これは、サムスン電子など個々の子会社が、経営の自律性を高めることを意味する。かつては中枢本部の存在により、サムスンの経営陣は、株主を犠牲にしてもイ・ジェヨンの利害のために動く動機があった。有罪判決によりイの支配から解かれたわけだ。

 これは投資家にとってはよいことだと思われるが、イ一族全体の影響力については今後も注視する必要がある。