信頼関係の構築が第一歩

 社員全員を育てる文化がない組織に、それを定着させるのは非常に難しいように思います。ご著書には、そのような組織をつくるポイントの一つとして、「弱さを見せあえることが大事だ」とありました。

 この「弱さを見せあう」とか「弱みを共有する」という提案は、非常にドラマチックな話なので、皆さんがそこに飛びついてしまいます。けれども、実はそれは最初のステップではありません。

 どのような時に人は弱さを見せられるかというと、そこが安全な場所だとわかった時だと思います。つまり最初に始めるべきは、その働く場がどれだけ信頼しあっているか、どれだけ安全安心を感じられる場所かを問うことです。

 誰もがスーパーマンではありません。内面を見せた時に罰せられない、できない奴だと判断されて価値を下げられない、と安心できることが大事なのです。

 現在、大半の人が「自分の弱さを隠す」ことに時間とエネルギーを費やしています。組織でこれほど無駄を生んでいる要素は他にはありません、人が安心して弱みを見せらせる環境が整うことで、もっと価値あることにエネルギーを費やすことができるのです。

 安心できる場であることを確認し、そのような場になった時に初めて、「弱さ」を見せあえるのですね。

「別にミスしたからって罰しないよ」とは、皆が言います。けれども、言っているだけでは、本当に罰しないかは分かりません。そういう意味では、誰かがリスクをとって、本当にミスをしても許されるのかどうかを、確かめる必要は当然あります。皆、水は温かいと言うけれど、本当に水が温かいかは飛び込んでみないと分からないのと同じです。

 職場における信頼を築く上で、まずやるべきは、一番力を持ってる人たちが最初に取り組むことです。彼らが弱みを率先して見せていくと、「変わる」ことに対する信頼が高まります。

 そしてもう一つ、安心感や信頼感を高める上で大切なのは、ポジティブなフィードバックの流れを強めることです。本書の執筆にあたって、人を育てる文化が根付いている組織を調査しました。そこでは、働いている人たちが批判的で厳しいフィードバックをきちんと受け入れると、書籍の中にも書きました。多くの人が、この事例を見ると「できるかな」と警戒してしまいます。

 いきなり、批判的なフィードバックを受け入れることは困難です。まずは真摯に心からの感謝を伝えあったり、単に褒めるのではなく「私の経験に基づくと、あなたのやっていることはすごく価値がある」というような、ポジティブなフィードバックをすることです。まずはここから始めることで、信頼や安心の文化が醸成されます。

 結果として、社員にみずからの弱点を克服するためのリスクを伴う行動が促せますし、克服するためのフィードバックを受け入れやすくなります。厳しい状態に陥った時に対応できる力も高まるし、そのような時に支え合うレベルも上がります。人々の能力を育むのに適した環境である「発達指向型組織(DDO)」へと変わるのです。

発達指向型組織が必要な理由

 どのような課題を持つ企業が発達指向型組織(DDO)を目指すべきでしょうか。

 まず、どんな組織がDDOを目指すべきではないかを考えましょう。まず非常に人の入れ替わりが激しい組織というのはDDO向きではない。人があまり長く働かなかったり、グループとしての感情がなかったりする組織は、DDO向きではないです。

 そして、リーダー自身が成長する取り組みに参画することに積極的ではない場合にも、お勧めしません。自分が学ぶことに否定的で、他の人が学べばいいと思っているようなところも向きませんね。

 最後に、その組織が非常に大きな課題に直面していない場合、個人や組織がそれまでの自己を超越しなければ対処できない「適応を要する課題」を抱えていない場合にもDDOは必要ありません。抱える課題が「技術的な課題」で、何らかのスキルを学べば解決できるのであれば、社員全員の能力を発達させていく必要性が無いからです。

 けれども、実際にいま「適応を要する課題」に直面していない企業はほとんどないでしょう。課題にきちんと対応するには、行動を変えたり、プロセス変えるだけではなく、その企業のマインドの変革が必要です。

 私たちはDDOが、この適応を要する課題に対応する、もっとも最善の組織のつくり方だと思っています。

 あらゆる組織がDDOを目指す必要がありそうです。

 リーダーや幹部向けに、このDDOに関するワークショップをする時は、DDOの話から始めるのではなく、まず彼らの事業について話をするところから始めます。

「あなたの企業はどんな課題に直面してますか」「どんな機会をつかみたいですか」といった質問に対する答えのリストをつくってもらいます。出てくる答えは、ほぼすべて、その企業の人たちがより成長したり、マインドセットを変えないと対応できないものばかりです。

 つまり、いまのケイパビリティでは、直面しているチャレンジに対応できないということであれば、やはりDDOは必要です。しかし、もしも抱える課題に対応できるケイパビリティを持っているのであれば、別にDDOをつくらなくてもよいのです。DDOの構築には、年数もかかるし、努力も要するからです。

 DDOに変わることが重要なのではなく、自分たちの課題を認識し、どのようなケイパビリティが必要なのかを、まずは考えるべきなのですね。

 そのとおりです。DDOに変わりたい本当の理由が必要です。自分たちの現状と、なりたい理想像にどのようなギャップがあるのか。ギャップがある場合に、どうすればそのギャップ埋められるかを考える。私の話を聞いて、皆さん興奮して「DDOになりたい!」と勇んでしまうかもしれません。でも、まずは落ち着きましょう。自社のビジネスのことを考え、まずはリーダー層から小さく始めて、広げていくことが大切なのです。