ディープラーニングと
ものづくりの融合がカギ

東京大学大学院 工学系研究科
特任准教授 松尾豊氏

 続く基調講演では、国内におけるAI(人工知能)研究の第一人者である東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾豊氏が登壇。現在の第3次AIブームの中核技術であるディープラーニング(深層学習)について解説するとともに、日本企業のAI活用についての方向性を示した。

 現在、AIと言われているものの多くはITの延長線の域を出ない。ディープラーニングはそれらとは異なる革新的技術であり、画像認識の分野で発展した。画像認識の誤認率はどんどん下がっており、2015年2月にはついに人間の精度を超えた。これにより、人が目で判断していることを自動化、機械化する可能性が一気に広がった。

 ディープラーニングは画像から自動的に特徴量を取り出している。これに強化学習を組み合わせることで、ロボットがおもちゃの飛行機を組み立てたり、いろいろなものが入っている箱のなかから特定のものを取り出したりするなどの研究成果も発表されている。

 「3年前に私は、『画像認識』→『運動の習熟』→『言葉の意味理解』という3つのステップでAI技術は発展すると予測した。現実はその通り進んでいるが、ディープラーニングによって想定をはるかに超えるスピードで進化している」と松尾氏は話す。「言葉の意味理解」が進むと、画像による翻訳も可能だ。英語の文章を画像に置き換え、それを日本語に翻訳する。「言葉の壁がなくなれば、日本人が英語力不足で損をすることはなくなる」。

 これまでの話をひと言でいうと「眼の誕生」。5億4200万~5億3000万年前のカンブリア紀に、眼が誕生したことで生物の大分類が出揃ったように、コンピューターに眼ができたことで、今後、機械やロボットの世界で「カンブリア爆発」が起きる。「イメージセンサーが網膜で、脳の視覚野に当たるのがディープラーニング。眼を持つ機械・ロボットの登場は産業に大きな影響をもたらす」と松尾氏は指摘する。なかでも影響が大きいのは、農業、建設、食品加工、組み立て加工などだ。農作物の収穫、建設では溶接や建機の操縦などが自動化されていく。

 「ものづくりが得意な日本企業は、ディープラーニングとものづくりの融合に着目し、そこからプラットフォームを構築していくことで競争優位を獲得することができるのではないか」と提言する。

 ディープラーニングの活用を始めること自体はそれほど難しくはない。研究開発に必要な文献は揃っているし、理系人材が半年も勉強すれば、ある程度使いこなせるようになる。しかし、日本企業に多い年功序列型賃金制度が大きな障害になると松尾氏はいう。「ディープラーニングがわかる若い人材に高給を払うことができるかどうか。欧米では、自動運転技術研究者の報酬は平均で29万ドル。ディープラーニングの新卒技術者を年収1500万円で採用する企業が出てくれば、状況は大きく変わるだろう」と期待を寄せる。

 ディープラーニングとものづくりの融合は、日本企業にとって大きなチャンスだが、いかに早く動くかが大きな課題であり、経営判断が問われている。