デジタル時代のチェンジマネジメント

 これら先行事例の取り組みを振り返ると、既存事業を持ちながら、デジタルの強みを身につけた企業へと転換していく(破壊的な変化があっても生き残る、または、自ら破壊的変化を起こす企業になる)ためには、以下の4つの項目が必要と考えられる。

①デジタル組織は独立させて研ぎ澄ます(”孤立”させない強い後ろ盾も用意)

 デジタルの事業を立ち上げるには、以下②~④に記すように既存事業とはまったく異なるアプローチ、制度、人財カルチャーが必要となる。また、短期的に見ると既存事業とカニバリゼーションを起こしたり、事業開発投資によってCashを毀損する場合も多い。これらの状況を同じ事業部門のなかで既存の財務的な事業目標数値とバランスしながら追い求めることは難しく、それをしようとすると多くの場合、既存事業とのカニバリゼーションが起きない新規領域での取り組みに終始してしまったり、既存事業の成績によってデジタル事業投資が抑制される、などの結果になってしまう。このため、多くの先行事例においては、デジタル新規事業を担う組織は既存の事業からは切り離して設置されている。

 ただし、多くのデジタル事業立ち上げにおいては、既存事業のリソース・アセット(顧客・技術・など)の活用が必要になるため、別組織として切り出されたデジタル組織と既存事業組織のコラボレーションを促進するための強力な仕掛けを構築する必要がある点に留意が必要となる。

②R&Dの主戦場を開発拠点から「ユーザーの隣」に移し、投下リソースを大胆にシフト

 デジタルのサービス・事業は、C顧客に対しては新たな体験(User Experience)を、B顧客に対してはビジネス成果(Outcome)を提供するものである。これまでは研究開発拠点で技術・商品を開発し販売するというアプローチだったが、デジタルサービスの場合は、ユーザーに試してもらい(Proof of Concept)、顧客体験を実現する、もしくは成果を創出するまで改良を続けていくというアプローチが必要となる。

 このため、技術・サービス開発者が前線(たとえば顧客の工場など)で技術・サービス開発を行えるような人財配置を行い、また、その活動に投資を振り向けることが必須となる。これらの活動は顧客価値の大小を大きく左右するため、この投資は営業費用としてとらえるべきではなく、事業開発のための投資ととらえ、ここにこそ大胆に経営リソース(人・カネ)を投下すべきである(図表②)。

出所:アクセンチュア

③将来の爆発に主眼を置いた事業評価KPI・事業管理プロセス

 デジタル事業は、アクティブな顧客数や、そのデータの蓄積が将来にわたって価値を生み出すモデルとなっていることが多い。そのため、短期的なP/LやFCFの創出額ではなく、MAUやそのデータ量の獲得を追求し、経営もその数値をモニタリングしていくことが重要である。

 しかしながら、多くの企業ではデジタル事業を立ち上げて翌年頃にはP/L、キャッシュの創出が求められ、取り組みが矮小化されてしまったり、事業推進のフォーカスがズレてしまう事例をよく目にする。

 一つひとつの案件で目の前のP/L、キャッシュを追うのではなく、案件をポートフォリオとしてとらえ、大きなMAUやデータ量、顧客成果を実現する案件を増やすこと、達成見込みのない案件からは迅速に撤退することで、中長期的なP/L、キャッシュを最大化していくための、デジタル事業向けKPIと案件マネジメント手法(ステージ管理、ゲート管理)を導入する必要がある。

④“デジタルカルチャー人財”を惹きつけるための環境整備

 デジタル事業に求められる文化、ケイパビリティは、従来の事業とは大きく異なることが多い。このため、Buy(買収)、Build(採用育成)、Borrow(パートナリング)のいずれでそのケイパビリティを調達するかを選択し、そのための制度・仕組みを整える必要がある。Buildを選択する際には、外部のデジタルスター人財を採用するための報酬体系、デザイナーやデータサイエンティストなど新しい職種の人財を惹きつけるためのキャリアパス・評価制度など、あらゆる既存の人事体系を見直すことが必要になることを考慮しておく必要がある。