アンダーアーマーとドイツテレコムの成功事例

事例①:アンダーアーマー

 スポーツウェアメーカーのアンダーアーマー(Under Armour)は、“コネクテッドフィットネスを通じて、消費者の生活に24時間食い込む(ヘルス&フィットネス領域におけるフェイスブックになる。)”という企業ビジョンを掲げ、①デジタル体験の提供によって消費者との日々の関係を構築し、②シャツ、シューズなどビジネス全体の成長を加速する、という戦略を発表。

 2015年にフィットネスアプリ“UA Record”、2016年にウェアラブルデバイス“Health Box”、スマートシューズ“UA Record Equipped Running Shoes”を発表するなど矢継ぎ早に新サービスをリリースし、2013年にゼロだったデジタル関連事業売上げについて、2014年に2000万ドル、2015年に5000万ドル、2016年に8000万ドルに伸ばすなど、急激な立ち上げに成功している。これらのアンダーアーマーによるデジタル事業推進の取り組みには2つの特色がある。

a. デジタル新組織の切り出し

 デジタルの新事業立上げには、既存の事業とは異なるケイパビリティ・人財が必要になる。このためアンダーアーマーではデジタル新事業を担う組織をDigital Head Quarterとして切り出し、本社のあるボルティモアから離れたオースティンに拠点を設置。本社CDO(Chief Digital Officer)を兼ねたDigital Head Quarter組織長には買収したスタートアップ企業のメンバーを配置し、従来の企業文化とは異なる組織として立ち上げた(図表①)。

 これらの取り組みにより、2013年に63人だったメンバーを2016年には500人規模にまで拡大し、デジタル事業を強力に推進している。

出所:アクセンチュア

b. デジタル事業向けKPIの設定

 アンダーアーマーでは、顧客ベースの獲得数こそが将来の事業価値を生み出すとの考えのもと、短期的なP/Lやフリーキャッシュフロー(FCF)よりも上位のKPI(重要業績評価指標)として登録ユーザー数とMAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー数)を設定。このKPIを徹底的に追及。

 これにより、2015年時点で登録ユーザー数1.6億人(Nike+の約5倍)、MAU7700万人(Fitbitの約8倍)という圧倒的な顧客ベースの獲得に成功しており、これは将来にわたり大きな収益とキャッシュを創出する源泉となる。

事例②:ドイツテレコム

 ドイツテレコムは2004年に複数の大学との共同研究施設としてT-Labs(Telecom Innovation Laboratories)を開設。2008年に、よりビジネスに直結するソリューション開発を志向してCreation Center(以下、CC)を開設して以降、スマート・アグリカルチャー、コネクテッド・ホーム、コネクテッド・カーなど多様な領域で新規事業・サービスを立ち上げている。現在では500名のイノベーション創出の専門家が在籍。その特色を以下に述べる。

a. マーケット・ユーザー起点のイノベーション創発アプローチ

 CCによるイノベーションは、事業部のマネジャーによって持ち込まれる「ユーザーの課題」が起点となっている。CCではそれら「ユーザーの課題」を徹底的に掘り下げ検討を開始。そのうえで、外部のクリエイター、デザイナーのサポートに基づくデザイン・シンキングによって解決方法を抽出・プロトタイプしていくアプローチを採用。CCは、ユーザーの課題の理解から、製品/サービスの市場展開まで一貫してサポートすることで、ユーザーの課題の解決を担保。これまでに1万件以上のアイデアを生み出し、数多くの商用化に貢献している。

b. イノベーションポートフォリオマネジメントとゲート管理プロセス

 T-Labsにおいては、数多くのイノベーションアイデアの商用化プロセスは、ポートフォリオとして管理されている。すべての案件はユーザー課題掘り下げの段階からイノベーションのパイプラインとして管理され、全案件のうち一定の割合は、大きく市場破壊・市場創造する可能性を持つ革新的な案件となるよう、推進案件をコントロールしている。

 また、全案件はプログラム・マネジメントオフィスによってステージ管理され、次のステージに進められるかどうかのKPI基準にのっとってゲート管理されている。たとえば、顧客実証フェーズから製品化フェーズに進むか否かは、顧客から熱狂的な支持が得られたか否か、などの基準に基づいてチェックされ、基準を満たさない案件への投資は凍結する、というプロセスを厳格に運用することで、全体としての投資効率を最大化している。