この変化を理解したいのなら、最寄りのアップルストアに立ち寄ってみるとよい。品揃えは限られ、レジもない。店に足を踏み入れると、生身の人間が挨拶してくれる。客の質問に答えアドバイスをするよう訓練されたスタッフだ。そこでの体験は、ハイテクというよりも、はるかにハイタッチ(人間的)である。

 アップルストアがそのように見える理由は、取引の促進のみを企図していないからだ。そこは、オンラインではできないすべてのことを行う場としてつくられている。関係の構築、サービスの提供、問題の解決、よりハイグレードな商品の提案などだ。

 これはアップルに限ったことではない。オンラインで成功を収めた多くの小売業者が、いくつもの理由から、リアルな世界にますます重点を置くようになってきている。たとえばアマゾンは、ホールフーズの買収により、格段に包括的な流通拠点を手に入れることができた。それがアマゾンのオンラインモデルの効率性を高めることにもなる。

 トイザらスが直面している課題にも関連する、より興味深い展開がある。それは「買い物ができるショールーム」の登場だ。メンズウェア・ブランドのボノボスの「ガイドショップ」や、ジェイ・ヒルバーンの「ザ・スタジオ」のような場所では、顧客は試着し、スタイリストに相談し、返品処理もできる。標準的な店舗とまったく同じだ。ただし、在庫を持たないため、小さい面積で済み、コストが抑えられる。現在、高級百貨店ノードストロームも同様のコンセプトをテスト中だ。

 もしトイザらスがこのモデルを採用していたら、どうだろうか。小さなプレイルームを立ち上げ、親が子どもを連れて、めまぐるしく入れ替わる最新の玩具を試せるようにするのだ。子どもたちが楽しい時間を過ごしたのちに、親に玩具をせがむさまが想像できるだろう。既存のリアル店舗は流通センターとして機能させることで、即日配達が最低限のコストで可能となるはずだ。

 けれどもトイザらスは、人間的な触れ合いよりもハイテクを選んで、新機能を展開している。Find It Fastは、どの店にどの玩具の在庫があるかを顧客に示すサービスだ。また、ロイヤルティプログラムを利用して、よりターゲットを絞った広告や、よりよい商品ライフサイクル管理に役立てている。どのアイデアも悪くはないが、小売業の変わりゆく業態には対応できていない。むしろ、衰退しつつあるモデルを最適化しようとしているのだ。

 W. チャン・キムとレネ・モボルニュは2005年の共著のなかで、ブルー・オーシャン戦略を一般に広めた。熾烈な競争に満ちた「レッド・オーシャン」で戦うよりも、新たな市場「ブルー・オーシャン」に注力せよという理論だ。しかし、マサチューセッツ工科大学教授デイビッド・ロバートソンが指摘するように、現在の小売環境はレッドでもブルーでもなく、「デッド・オーシャン」に近い。既存の生物を全滅させるが、別の生命体が繁栄できる新たなエコシステムを提供する、死の海だ。

 ロバートソンは例として、レゴのディスカバリー・センターを挙げている。その典型的な拠点は、入居のないデパート店舗に設けられ、レゴランド(アミューズメントパーク)にあるアトラクションの小型バージョンがいくつか置かれている。レゴはこの戦略によって、空きをどうしても埋めたいショッピングモールの所有者との交渉において優位に立てるわけだ。

 また、変わりゆく小売りの業態を逆手に取って、期間限定店で実験を行う会社もある。そこで新たなコンセプトを試したり、重要な期間中に拠点を増やしたりするためだ。最近は商業施設の家主もずいぶんと融通が利くようになってきているので、小売業の終末を楽しむことを学びつつある事業者もいる。

 したがって、変化への適応に失敗したトイザらスから学べるのは次の教訓だ。

 破壊的変化に対する正しい対応は、衰退しつつあるモデルに倍賭けすることではない。顧客の関心が薄まる一方の物事において、ひたすら能力を高めることでもない。自社の注力の方向を、人々がより強く望むものへと変えることだ。価値は決して消えるのではなく、ただ別の場所へと移動するだけである。


HBR.ORG原文:Toys ‘R’ Us Might Be Dying, but Physical Retail Isn’t,  September 20, 2017.

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グレッグ・サテル(Greg Satell)
コンサルタント、講演家。著書にMapping Innovation: A Playbook for Navigating a Disruptive Ageがある。