●仕事の代わりに「する」ことに焦点を当てる 

 多くの人が行動様式を変えられない原因は、仕事の代わりに「する」ことよりも、仕事を「しない」という行為に焦点を当てるからだ。目標を、オフィスから離れているときは仕事をしない(あるいは仕事のことを考えない)ことに設定すると、仕事関係の何かをしたくなるたびに自制することが前提になる。

 このように、しないつもりの行為に焦点を当てるネガティブな目標は、2つの理由で失敗しがちだ。第1に、新しい習慣が身に付くのは、それをしないときではなく、しているときに限られる。したがって、ある行為を回避するという習慣をつくるのは、そもそも不可能なのだ。第2に、ネガティブな目標を設定すると、絶えず自分で自分を見張っていなければならない。そうでなければ、やるまいと思っていたことをしてしまうからだ。

 それよりむしろ、仕事の代わりにすることに焦点を当てる必要がある。退社後の夕刻であれ、休暇中の時間であれ、とにかくオフの時間のための計画を立てるのだ。具体的な計画が必要だ。さもなければ既存の習慣に戻って、仕事から離れているべき時間に、またもや仕事をしていることになるだろう。計画で焦点を当てるべきは、仕事の代わりにする活動だ。

 たとえば、オフィスの近くのジムで週に2~3回、午後5時半からパーソナルトレーナーをつけたトレーニングの時間を設定する。あるいは、パートナーに「今日は私が保育園に子どもたちを迎えに行く」と告げる。もしくは、地元の慈善団体で週末ボランティア活動を始める。自分磨きもいい。語学クラスに参加して新しい言語を学ぶ、楽器を習い始める、あるいは絵を描き始める。いずれも、仕事に充てる時間を制限して、仕事の代わりに時間を割り当てる活動だ。

 それでも、仕事のことがいつの間にか頭に浮かんで、オフの時間に割り込んでくることも、あるかもしれない。この場合は、これからすべき仕事のことを反芻しないよう準備をしておきたい(ところで、「反芻する」とは絶妙な言い回しで、牛が食い戻しを繰り返し咀嚼する行為を表す単語に由来する)。

 いつの間にか頭に浮かんでくる仕事に、対処する方法は2つある。

 1つは、そういうときのために集中できる活動を用意しておくことだ。小説を読むでもいいし、クロスワードパズルをするでも、あるいは友人に電話をするでもいい。だが、ときには仕事に関する何かが気になって仕方がないこともある。その場合は、ノートを手元に置いておくといい。タイマーを10分にセットして、頭を悩ませていることをすべて書き留める。悩みの種を吐き出すことが助けになることがよくある。とりわけ、仕事に戻ったときに片付けるタスクが気になっているわけではなく、漠然とした不安を抱いているときは、この手法が効果的だ。

●環境を変えることで、新たな行動様式を後押しして旧様式を抑える

 喫煙者は、大量のたばこを戸棚に隠している間は本気で禁煙しようとはしない。同様に、ワークとライフの境目を健全化しようとする人は、携帯電話やパソコンを常時オンの状態にはしない。

 そう、私がここで提案しているのは、あなたのデバイスを実際にオフにすることだ。完全にシャットダウンするのだ。オフィスから離れているとき、仕事をしたいという衝動を管理するための素晴らしい方法は、その仕事をしづらくすることだ。ちょっと確認したいと思った際に、わざわざ携帯電話をオンにしなければならないなら、いまはやめておこうと思い直せるかもしれない。 

 仕事について頻繁に反芻している場合も、環境の変化を利用すれば克服しやすくなる。決して仕事をしないスペースを自宅に設けるのだ。1部屋全体でもいいのだが、部屋の一角でも構わない。そこに椅子(またはマットか枕)を置き、読書やヨガといった仕事以外の活動をする場所として使うのだ。仕事が絡まない活動とこの空間の結びつきが強くなっていけば、仕事のことを考えてしまう習癖から抜け出す方法としてこの空間が使えるようになっていくだろう。

 より健康的な新しい環境づくりには、周囲の人を巻き込んで、支えてもらうことも必要だ。友人や家族に頼んで、あなたが仕事から離れていられるように手助けしてもらうのだ。たとえば、携帯電話を取り出さないように念を押すことを、相手に許可する(そして相手に携帯電話のことを指摘されても、あなたはそれを不愉快に思ってはいけない)。あるいは、相手と一緒にできる活動で、かつあなたを仕事から遠ざけ、仕事関係のことから気をそらせてくれる活動を探すのもいい。

●仕事から一歩離れる。それでも悲劇は起こらないことを確認する 

 たとえ上記のように計画を立て、計画通り実行しやすくする環境をつくったとしても、必要なのは、一定の時間、仕事を断とうというあなた自身の心構えだ。不安で仕方なくなるかもしれない。何しろ、重要なメールにすぐに返信ができないのだ。あるいは、よくないことが起こるかもしれない。重要な仕事の出来が悪かったり、まったく終わっていなかったりするかもしれない。

 ここで助けになりそうなのが、認知行動療法から得られる教訓だ。複数の研究が示唆するところでは、不安を軽減するための素晴らしい方法は、その元になっている恐ろしい状況に身をさらして、実際には恐れるに足りない状況だと徐々に学ぶことである。

 重要なメールを見逃すのではないかとメールが絶えず気になるのなら、一晩だけ、メールを一度もチェックせずに過ごしてみる。そうすれば、やるべき仕事が翌朝まだそのままそこにあることがわかるはずだ。次に、メールをチェックしない時間を長くしてみる。ある週末の一日を一度もメールをチェックせずに過ごしてみる。それから思い切って、週末の間、ずっと。

 あなたがすぐに返信しなければ、多くの人は何とか自分で解決するものだと、わかるかもしれない。そのうえ、オフの時間をある程度まとめて取ったので、あなた自身はより多くのエネルギーとよりよいアイデアを携えて、仕事に戻れるだろう。


HBR.ORG原文How to Forget About Work When You’re Not Working, August 25, 2017.

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アート・マークマン(Art Markman)
テキサス大学オースティン校のアナベル・イリオン・ウォーシャム生誕100周年記念講座教授。心理学とマーケティング論を担当。また、同校ヒューマン・ディメンションズ・オブ・オーガニゼーションズ教育プログラムの創設ディレクターでもある。論理的思考、意思決定、モチベーションなどをテーマに、150以上の学術論文を執筆。著書に『スマート・シンキング』、『スマート・チェンジ』、Habits of Leadership(未訳)などがある。