医療分野のICT化を阻害する3つの要因

――医療分野におけるICTの活用は国策の一つにも位置づけられていますが、法規制のハードルが高い領域でもあります。ICT化を阻害している要因は何ですか。

 3つあると思います。1つは、医療情報が閉じられた世界にあることです。医療情報を患者に渡すことは問題があるという人もいれば、そもそも病院に保管してあるカルテは病院のものだという先生もいます。本来、個人の医療情報は本人のものであり、知る権利があるはずです。病院側の固定観念を変えていくとともに、医療情報を患者本人に戻していくためのルールづくりが必要です。

 2つ目は、セキュリティの問題です。これは医療に限ったことではなく、メールやインターネットを利用する時点で、セキュリティのリスクはゼロにはなりませんから、技術面での対応が不可欠です。院内のPCはもちろん、ネットワークやサーバーなどシステム全体で適切なセキュリティ対策を施していく必要があります。

 3つ目が、国民一人ひとりの医療分野におけるICT活用に対する理解です。スマホからいつでも、どこでも医療情報にアクセスすることができれば、新しい病院に行っても、クラウドに保管された情報を医師に見せることで持病やこれまでの治療内容を伝えられ、余計な検査を受けなくても済みます。さらには、健康保険証や診察券、処方箋の電子化がもたらすメリットを実感することができるかどうか。

 3つ目は、意外とスムーズに進むような気がしますが、問題は1つ目と2つ目です。国・政府を交えた検討会やガイドラインづくりの取り組みが重要です。

――そうしたなかでも先駆的にICT化を推進する慈恵医大ですが、欧米との比較ではいかがですか。

 医師はもちろん、看護師を含め1人1台スマホを配布したことは、医療機関としては世界でも類を見ない規模です。米国に行くと、いまだにポケベルを利用しているケースも見受けられます。もちろん、スマホもありますが、個人が所有するスマホを利用しているケースが多いようです。日本では、厚生労働省が公表したガイドラインで「BYODは原則的に禁止」と示されています。BYOD(Bring Your Own Device)とは、個人が所有するデバイスを業務用途で使用することですが、個人的には、適切なセキュリティ対策や管理体制が整っていれば、費用面から考えてもBYODをある程度認めてもよいのではないかと考えています。医療のみならず介護領域にも広げていくには、費用面は考えていかなければならない課題です。これまで医療現場で培われてきたICT基盤やシステムを活用する観点からも、BYODを許容する運用方法を検討していく必要がありそうです。