ステップ(3)資源コミットメントと成功事例の創出

 3つ目のステップは、捉えた「機会の窓」を形にしていくことである。新しい形としては、新製品、新規事業、新しいビジネスモデルなどさまざまなものが想定される。それらが新たな事業環境に受け入れられ、自社と外部の新たな関係性(外部との連携のあり方、顧客との接点業務など)として定着するためには、継続的な努力が必要となる。そのために重要となる4つのポイントを指摘しておきたい。

 第一に、当たり前だが、事前に資源投入を行うことである。通常の業務を回すのとは別の資源・能力がなければ、アイデアは形にならない。当然、既存の事業に比べて、新しい試みは、小さく・儲からない。経済合理性も低い。「いま」だけの視点では非合理に見えるのが普通である。それゆえ、「いま」と「未来」のバランスを考慮するリーダーシップ、時間軸を強く意識した意思決定が必要となる。

 また想定どおりに事が進まないのもよくある話だ。そのたびに既存事業から資源や機能を借りていては、新しい試みは容易に頓挫する。それゆえ、事前に投入する資源は、独立して機能できる部隊であるべきである。

 第二に、進化論の視点を持つことである。企業内のイノベーションも、進化論になぞらえることができる。新しいもののバリエーション(変異)が生まれ、セレクション(選択)されて、最終的に生き残ったものがリテンション(保持)されていく。失敗にめげず、できるだけ早期にリテンションされるべき成功事例を生み出したい。それは組織の「弾み」をつけることにも大きく役立つことになる。

 第三に、既存事業とのカニバリを積極的に推進していくことである。中・大企業では、新しい事業が既存事業とカニバリしてしまうという理由で、その新しい事業を躊躇することがよくある。しかし、環境が変わっているのであれば、自社が新しいチャレンジをしないということはすなわち、競合他社にいずれ事業を譲り渡してしまうことを意味する。

 これは、新しい事業を「どう捉えるか」という認識の問題だ。新事業は、既存事業を邪魔するものではなく、既存事業を進化させていくものと捉えるべきである。たとえば、インテルは、積極的に既存製品をカニバリすることによって事業を拡大し、主導的地位を確立した。

 第四に、機会の捕捉のための時間軸を想定しておくことである。機会の捕捉には2パターンある。一つは、タイミングを合わせて一気呵成に攻める(一斉攻撃:Concerted Attack)。もう一つは、創発を取り込みながら、長い時間軸でエコシステムを作っていくか(あるいはできるのを待つ)である。

 一斉攻撃には、コミットメントが必須となる。たとえば、サムソンは液晶TVでのポジションを築くために、供給キャパを整えるとともに、グローバル市場でのブランド垂直立上げのために莫大なマーケティング費用を投下した。シャープなどの日本勢が国内市場を重視している間に、一気にグローバル市場を押えにかかったのである。その後の経緯は皆さんご存知のとおりである。

 創発を取り込み、エコシステムを作り上げるには、逆にある程度の時間スパンが必要となる。たとえば、マイクロソフトやインテルが形作っていったPCのエコシステム、VHSがβに打ち勝ちデファクトとなっていく際に作られていったメーカーやソフトベンダー群、最近ではアンドロイドやiOSとアプリメーカーなど、数年から10年単位の時間をかけエコシステムはより強固なものとなっていった。補完的経営資源を整え(あるいは整うのを待ちながら)、新たなエコシステムを育て、強固にしていくためにはある程度の時間スパンが前提となる。

 一点突破するのか、ある程度時間をかけて創り上げるのか。どのような時間軸の中での戦略なのかについては、事前に明示的に意識しておくべきである。

 企業としては、なんとか生き残った新しいものを、反カニバリ発想や既存事業からのプレッシャーに負けることなく、定着させていく努力が必要となる。そうやって生き残った成功事例が、企業変革の種になっていく。