ステップ(1)「兆し」を捉えるセンシング環境の整備

 変化の「兆し」を捉えるために特に着目したいのは、対象物そのものの変化ではなく、物事の関係性が大きく変わりつつあるところである。対象物が変わる・変わらない、関係性が変わる・変わらないで事象を分類すると、もっとも注意すべき領域は、関係性だけが変わる変化である(図9)。

 なぜなら対象物そのものが変わる場合、あるいは対象物・関係性の双方が変わる場合は、誰の目からも見ても変化が分かり易く、「備え」の段階での差異が生まれにくいからである(勝敗は、実行力や技術力など別の要素が決めることになる)。

 他方、関係性のみが大きく変わる場合は、その変化に敏感に気づき、早く動けた企業がその後の競争優位を獲得することになる。

 たとえば、アメリカにスカイウエストという航空会社がある。毎日4000便を飛ばしている米国最大規模の航空会社の一つだが、あまり知られていない。なぜなら、この航空会社は、ユナイテッド航空やデルタ航空などの地域路線を、それらの航空会社のロゴを使って替わりに運行している航空会社だからだ。飛行機を飛ばして乗客を運ぶというオペレーション自体は変わっていない。しかし、誰が飛行機を保有し、運行し、整備するかといったプレイヤー間の関係性が変わってしまっているのである。

 このような変化は外からは見えにくい。しかし、経済合理性を理由に徐々に業務が外出しされる変化を捉え、新しいビジネスモデルを創造していったスカイウエストは、大手航空会社の倒産、合併が進む中、台頭していったのである。

 かつてPCの業界でも同じようなことが起こった。PCメーカーがすべて自前でOSやCPUを開発する時代から、マイクロソフトやインテルがコア製品をおさえてしまう時代への変化である。その間、産業構造が「タテ型」の垂直統合から、「ヨコ型」の水平分業に変わり、業界の収益構造が大きく変わってしまった。ここでもPC(対象物自体)の本質は大きく変化していないが、産業内プレイヤーの役割や関係性は大きく変わった。そして、業界の勝者も変わってしまった。

 これらの関係性の変化は、辺境で始まることが多い。たとえば、いまの主流のビジネスからは離れた場所・周辺領域(時には物理的にも離れたところ)、既存の技術とは異なる技術領域、メイン顧客ではない周辺の顧客セグメント、といった具合である。辺境には主流とは異なる新たなニーズがあったり、主流の抱える問題がより鮮明にみえたり、過去やしがらみにとらわれない発想がある。それら離れたところにある変化の「兆し」を早いタイミングで捉えるためには、変化を感知するための備え、つまり資源・能力が別途必要になる。

 近年、オープンイノベーションの重要性が主張されているが、オープンイノベーションを活用するためには、自分たちにとって何が重要なのかを感知するための基礎研究開発力を持っておく必要性がある。なんのアンテナも立っていなければ、外の重要な変化、特に主流から離れた辺境での変化には気がつくことすらできない。

 変化を捉え、新たな価値創造をするための資源・能力を、組織全体で生み出している企業もある。有名な事例は、3Mの「15%カルチャー」やグーグルの「20%ルール」である。仕事時間の一定の割合を好きな研究に使ってよいという、未来への資源配分の実践だ。当然、現場ベースの感知の仕組みは、アンテナ向上に役立ち、そこから新しいものも多数生まれてくる。おそらく3Mやグーグルでは、他の企業と比べ、PDCAをしっかり回すという企業風土より、SSTを実現しようとする組織風土の方が強いに違いない。

 変化の兆しは、最初、ノイズか本当のシグナルかが分かりにくい。それゆえ長期的な視野に立って、時間の経過とともに、その判断の精度をあげていくしかない。それゆえ、兆しを感知する「場」や「仕組み」を整え、組織のアンテナを高める工夫を行うこと(社員を社外に行かせたり、視座・視野を高めるための教育なども含め)が第一のステップとなる。早いタイミングで変化の兆しを捉えることは、早いタイミングでものごとを開始・変革するための前提条件になる。