(3)「変革」のタイミング

 3つ目は、早めのタイミングで変革を仕掛けることである。第1回で紹介したシーメンス、フィリップスなどは、日本の電機メーカーに比べて早いタイミングで撤退の意思決定を下し、復活や新たな成長の道筋をつけている。

 ある素材メーカーにおける新規事業の立ち上げの際の出来事である。その会社では10年前にある画期的な素材を開発し、その製品実用化の検討を始めた。その後、製品化したものの、なかなか効率的な量産技術が確立できず、事業そのものは赤字が続くことになった。10年前は画期的な技術であり、製品でもあったのだが、競合他社がやがて代替技術による新製品で攻勢を強め、その製品の競争優位はもはや無いに等しい状況だった。

 しかし、やめられない。その主たる理由は、役員の〇×さんが昔始めたことなのでやめられないというのである。しかし、そんなことを続けていると、儲からない事業だけが根雪のように溜まり、やがて本体をも蝕んでいきかねない。

 環境変化の速い世界においては、事業や資源・能力の組み替えは、戦略の本質となる。変革のタイミングは、ポリティクスや体裁、感情で決めるべきではない。ただでさえ新しい価値を作っていくのには時間がかかる。自社の戦略的自由度が大きいうちに、未来を見据えた合理性、客観性に基づき、早めの変革を仕掛けたい。

(4)「転身」の速さ

 4つ目は、変革の実現に向けた「転身」の速さである。日々の連続的・漸進的な流れの中での速さではなく、戦略転換や組織構造改革など、方向転換や新しいチャレンジをはじめる時の速さの課題である。定常状態の速さではなく、変革期の速さ、つまり、変化の変化スピードの向上だ。

 筆者のコンサルタント時代の同僚の中には、ベンチャー企業へと転職していったものが大勢いるが、「コンサルタント時代、大企業では数か月かけて検討していたような重要な戦略課題を、数日で検討・決定し、すぐさま実行に移している」と聞く。

 もちろん、大企業はベンチャー企業のようにいかないのは事実である。変革を終えるまでに、5年、10年の時間がかかる場合もある。そして痛みを伴うことも多く、多大なエネルギーが必要となる。しかし、変革が長引けば長引くほど、組織は混乱し、人心が離れ、成功確率も下がってしまう。また、新しいビジネスモデルや業務プロセスを組織に定着させるにはどうしても時間がかかる。環境変化に追いついていくためにも、変革を速く進める努力は必要となる。

 大きな変革を成し遂げた企業事例としては富士フイルムがあげられる。富士フイルムは、富士ゼロックスの子会社化、大規模なリストラを行った。さらに、6500億円を投じた約40社の買収は、10年かかったものの完遂した。そして、医療分野も大きく伸ばし、2016年度の売上高は2兆3千億円、営業利益率7.4%を維持している。他方、変革を成しえなかったコダックは2012年に経営破綻に追い込まれた。

 独シーメンスも、20世紀末から再成長と収益性改善のため、テン・ポイント・プログラムと呼ばれる事業の取捨選択とコスト削減、とグローバル化のための戦略を実行した。5年という短い期間で、約30件の買収・合弁、10数件の事業売却を実行し、変革を成し遂げた。その間に、日本の家電・重電メーカーの中には、再編の波にのまれたり、経営危機に陥っていた企業も少なくない。

未来に向けた取り組みの頓挫を回避

 日々業務は回っている。そして、これまで重要性を喧伝されてきたこともあり、PDCAの流れは意識に上りやすい。しかし、「変化」を捉えようとするSST(センシング・シージング・トランスフォーミング)は明示的に意識しにくい。なぜなら、(1)変化の先にある未来が不確実であること、(2)ビビッドに実感できないこと、(3)そもそも組織も人も変化に対する抵抗感が大きいこと、これらがSSTを回すことを阻害するからだ。結果、未来を失うことになろうとも本能的に現在を守ろうとしてしまう。あるいは、みずからの意思決定に対する評価を未来にゆだねる覚悟が持てず、流されてしまう。

 そうならないためにも、「備えのタイミング」「進化の速さ」「変革のタイミング」「転身の速さ」の4つの時間優位構築の切り口を意識しながらSSTの強化に向けて一歩踏み出すことは、今後ますます重要になるはずである。


■バックナンバー・つづきはこちら(全3回連載)
【第1回】「時間」が企業の勝負を支配する時代
【第3回】時間に敏感な組織は、5つのステップでつくられる