(1)「備え」のタイミング

 まず1つ目は、早いタイミングで「備え」を始めることである。

 最近、「宗一郎の夢」のホンダジェットが米国の空を飛び始めた。1986年の研究開始からは30年後のことであり、ジェットエンジンの土台となるガスタービンの研究を開始した1962年からは、50年以上の時を経てのことである。十分な備えを持って、現在米国で魅力的になりつつあるビジネスジェット(約2万機の市場)の市場機会を捉えようとしている。

 一方、早いタイミングでの備えを怠ると、新たな市場からロックアウト(締め出し)されてしまうこともある。通常、イノベーションの発展パターンは、製品イノベーションから始まり工程イノベーションに移ると言われている。その変わり目は、製品のドミナント・デザイン(標準化・固定化されたデザイン/例:キーボードの配列、空気入りタイヤ)の登場にある。

 もし、ドミナント・デザインが固まる前にその市場に参入していなければ、そこからロックアウトされてしまい、後からの参入が困難となる。着手のタイミングの「早さ」が決定的にその後の企業パスを左右してしまうのである。

 小さくてもよいので、早くから「備え」をすべきである。そうすれば当然、新たな機会を素早くとらえられるだけでなく、目利き力も増すし、資源・能力の蓄積もできる。また敢えて時期を遅らせてタイミングを見極め、「機会の窓(Windows of Opportunity)」を捉えることも可能となる。

 経営の意思決定においても、早いタイミングでの備えは重要となる。モノを吊り上げる際に使われるホイストという製品で国内No.1シェアを持つキトーは、バブル経済崩壊の後、一時業績が低迷していた時期があった。その際、当時国内ではまだ珍しかったプライベート・エクイティー・ファンドのカーライルからの出資を受け入れてMBOを実施し、その後、戦略転換を行い、成長を続けている。

 当時専務であった鬼頭芳雄氏(現代表取締役社長)は、会長・社長と2時間程度の議論でMBOの意思決定を下したと言う。またそれは、銀行からカーライルを紹介されて約1週間での決断でもあった。

 なぜそのような速い意思決定が出来たのか。鬼頭氏は次のように言っている。「それはこの決定のかなり前から、さまざまなシミュレーションを繰り返しおこなっていたからです。その中にはプライベート・エクイティーの選択肢はなかったものの、そのリスクと価値を即座に判断できる土台が出来上がっていたのが大きな理由です」

(2)「進化」の速さ

 2つ目は、進化速度のアップである。進化するのは効率や生産性である。効率や生産性は、通常、アウトプットをインプットで割った指標だ。速さという観点からは、時間がインプットとなる。もし、同じアウトプットを出すための時間が10分の1になれば、生産性は10倍になる。アウトプットを大きく変えるのは難しいかもしれないが、時間投入量は、考え方・やり方を変えれば、「桁」を変えることにも可能である。これはBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の発想そのものである

 PDCAを1つのアウトプットを出すサイクルと捉えると、インプットの時間を短くするということは、PDCAのサイクルを短縮することと同義になる。

 以前、トヨタの方と話をした時、「さあ、今日のPDCAを回そう」と話をしていたのを聞いて驚いたことがある。1か月とか、四半期の話ではない。1日のPDCAである。サイクル時間を短くすると、ある一定期間の中でのPDCAの回数が増え、そこでのカイゼンが次に活き、その効果が複利で効いてくる(図6)。だから「速さ」は武器になり、カイゼンやBPRという考え方が非常に大きな威力を発揮するのである。

 日立金属は、松野浩二氏が社長時代、良い製品をタイムリーに素早く市場に投入するという目標のもと、1年目は「合力を納期に結集」、2年目は「さらに納期を」、3年目は「自分の納期を極めよう」、4年目は「『納期』を完成させよう」と、4年間にわたる全社運動の中で速さにこだわり、競争力を高めていった。