第1に、そうすることで同社が失うものは何もない。なぜなら、これらの慣行のいくつかは基本的で、当たり前のように見えるかもしれないが、実際には、継続的にうまく実行していくのはきわめて難しいからだ。

 私と共同研究者らは研究の一環で、この点について詳しく検証している。我々は34ヵ国の1万2000社を対象に、18の主要なマネジメント慣行がどれほど巧みに実践されているかを調査した(HBR英語論文)。その結果、目標設定や人材マネジメントといった基本的な手法があまり導入されない、多くの理由が見出された。

 そのうち最も顕著な理由は、次のようなものである。

●よりよいプロセスが必要かもしれない、という意識の欠如。

●よりよいプロセスを導入するのに必要なスキルの欠如。

●社内政治。より一般的には、組織内の信頼の欠如が新プロセスの導入を阻んでいる。たとえば、面接の実施方法を標準化しようという試みは、たとえそれが組織全体には有益であろうとも、一部の従業員によっては行きすぎた官僚主義ととらえるかもしれない。

 こうした障壁は乗り越えるのが難しいため、基本的なマネジメント慣行でも実践は容易ではない。したがって、他社(グーグルを含む)のやり方をただ模倣して、あとは成功を待っていればよい、などとはいかないわけだ。それらの慣行を奏功させるためのコアコンピタンスを構築しない限り、すべては絵に描いた餅だ。

 研究者にとって、実験の結果を他の実験室で再現するのがいかに難しいかを考えてみよう。手法がわずかに違っているだけでも、特定の結果を再現しようという試みは失敗する。マネジメント慣行も同様だ。それを有効にするためには、他のさまざまな慣行と、それらを支える規範を整える必要がある。

 この点からすれば、グーグルが「マネジメントのオープンソース化」で被る不都合はなきに等しい。優れたマネジメントを模倣することは非常に困難なため、同社にとってリスクではないのだ。

 グーグルがマネジメント慣行の公開を選択した第2の理由は、第1の理由と対を成す。たとえ単純な慣行でも、確実に実行されれば大きな見返りが生じうるということだ。つまり、基本的な慣行とはいえ導入は難しいため、それを果たした企業は業績への多大なインパクトを得る。グーグルのマネジメントツールの導入に成功した企業はすべからく、大きな利益を手にする可能性が高い。

 我々の研究サンプルの中で、マネジメントスキルを下位10%から上位10%へと向上させた平均的な企業は、収益が1500万ドル増大し、年間成長率が25%、生産性が75%高まった。

 その理由を知るために、「プロセスの導入」という基本的な手法について考えてみよう。一連の共通プロセスを順守することは、組織におけるありがちなバイアスを取り除き、直感ではなく客観的な結果を重視する手段だ。これはチームワークの重要な要素でもあり、互いに補完的な専門性を持つ熟練者らによる協働が必要な場合には、特にそうである。

 この一例として、外科医アトゥール・ガワンデが手術室でのミスを減らす方法として着目した、単純なチェックリストが挙げられる。彼のチェックリストは、高度なスキルを有する多様な人々から成るチームを、目の前の仕事に集中させ続けるのに役立つ、共通のプロセスだ。グーグルが重視しているような基本的な慣行は、ハイテクを含むすべての業界で必要とされる、結束を促す接着剤であることが多い。

 グーグルのCEOサンダー・ピチャイはこう述べている。「私はチームワークを非常に重んじており、従業員同士が協力を心から望むような組織をつくることが、本当に重要だと思います。すべてはそこから始まります。協働的な文化の構築は、私が取り組んできた大きな課題の1つなのです」。マネジメント慣行は、文化を築くうえでの必須要素だ。

 最後に、グーグルがマネジメントツールの公開を選択した第3の理由として、マクロ経済の成長への貢献が挙げられる。

 企業が成長すると、経済も成長する。我々の研究によれば、マネジメントに長けた企業はお粗末な企業に比べ、研究開発に費やす金額が10倍で、特許の取得も10倍多い。それらのイノベーションはすべて、経済全体に寄与する。実際に我々の研究では、国の平均的なマネジメントの質は、経済成長の標準的尺度との強い相関関係を示していた。

 強力なマネジメント手法の中には地味に感じられるものもあるかもしれないが、本当に重要だ。グーグルがそれを公にしたことは素晴らしい。だが企業は依然として、自社のマネジメント慣行を機能させる根本的な方法を確立するという、難しい課題に取り組まねばならないのである。


HBR.ORG原文:Google’s Secret Formula for Management? Doing the Basics Well, August 24, 2017.

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ラファエラ・サドゥン(Raffaella Sadun)
ハーバード・ビジネススクールのトーマス S. マーフィー記念経営管理学講座准教授。主な研究分野は生産性、組織、マネジメント慣行、情報技術の4分野にまつわる経済性。