環境インパクトと社会労働面を
測定するツールを導入

 面白い話ですね。広めるための活動は、他にもありますか?

 2010年、当社とウォルマート・ストアーズが共同で、「サステナブル・アパレル・コーリション」という、アパレルブランドの業界同盟を発足しました。アディダス、バーバリー、GAP、H&M、リーバイス、ナイキ、そして日本の繊維メーカーである帝人、東レなど、今では、500以上のブランドが会員になっています。帝人は最初に加入した企業のうちの一つです。じつに、世界の生産されるアパレル製品の50%が、この団体に加入しています。

 この団体を設立した理由は、環境に対する影響および社会正義について、測定するためのスタンダードなツールを開発するためでした。この団体が生まれた経緯は、なぜ世界最大の小売企業であるウォルマートのような会社が私たちのような小さな会社と手を組んだのかということも含めて、少しユニークですので、お話ししましょう。

 とても興味深いです。

 ウォルマートははじめ、当社のオーガニックコットンの製品に目をつけ、「ウォルマートもオーガニックコットンの製品を作りたいので、手伝って欲しい」と当社に打診してきました。パタゴニアの社内は議論が紛糾しました。当然、協力することに反対する意見がありました。なぜなら、オーガニックコットン製品は市場の1%未満しかなく、これを使うことが当社の製品の大きな差別化要因になっていたからです。つまりウォルマートを助けることは、パタゴニアにとっての脅威を生むことに繋がります。

 しかし私たちは議論の末、ウォルマートに協力することにしました。それはなぜなら、当社のミッションステートメントと照らし合わせた時、協力するという選択肢しかなかったからです。ウォルマートのような世界中に強力な販売力を持った巨大企業がオーガニックコットンの製品を作れば、オーガニックコットンの市場は拡大され、生産量は増えるでしょう。それは環境危機に対する解決策を他の企業に広めていくという当社のミッションステートメントそのものです。それはとりもなおさず、地球を助けることにつながります。

 当社はウォルマートのオーガニックコットンの商品開発に協力しました。そして、強い関係性を築きました。その次に私たちは、サステナブル・アパレル・コーリションを立ち上げたのです。この業界団体は、当社のような小さな企業だけでは今のような規模には出来なかったでしょう。ウォルマートからの働きかけによって、全世界の大企業が次々に加入したのです。

 サステナブル・アパレル・コーリションの評価測定ツールとは、どのようなものですか。

 一つは、環境アセスメントを標準化するツールです。そこにはさまざまなツールが含まれます。そのうちの一つは工場の環境インパクトを測定するツールです。これはすでに全世界で8,000以上の工場が適応していますが、この11月に新しいバージョンがリリースされれば、すぐに2万件まで適応数が増える予定です。

 次に完成しつつあるのが、工場の社会労働的な側面を測定するためのツールです。これはなかなか標準化が難しいものでした。なぜなら、独自の基準を持ったさまざまな労働組合があるからです。これらに統一のルールを作ることは、相当な苦労がありましたが、ほぼ完成し、2018年初頭にはそのツールが投入できそうです。

 さらに、ブランドの小売事業のオペレーションにおける環境インパクトと社会労働面を測定するツールも、すでに40社以上が導入しており、もうすぐバージョン2.0が完成する予定です。

 またアパレルデザイナー向けのツールも開発中です。衣類のデザインの際に、環境への影響を最低限に抑えているかどうかを評価するツールです。さらに、サプライチェーン全体のオペレーションを評価するツールも開発中で、こちらは2019年初頭のリリースを目指しています。

 今後、こうした評価基準を次々にリリースし、参加企業に適応してもらいます。適応できなければ、退会してもらうことになります。厳しいものです。

 貴社の思想の対極とも思える、ファストファッションのブランドも入っていることが凄いと感じます。

 2020年までに、アパレル企業のすべての工程における環境インパクトや社会労働的な側面が透明化されるような状態にしたいと思っています。これによって、アパレル業界にものすごい変化が起こるでしょう。そして、アパレル産業が消費財産業の模範になりたいと思っています。2013年に1,127人もの犠牲者を出したバングラディッシュのラナ・プラザのような事故が、二度と起きないように、です。

 サステナブル・アパレル・コーリションに参加することは、サステナビリティにコミットするいい機会になるので、他の日本企業も参加することを強く希望しています。

 素晴らしい活動ですね。

 この地球でビジネスを行うすべての企業は、あらゆる手を使ってでも、サステナビリティに対する意識を高めていく責任があると思っています。それと同時に、それぞれの顧客とステークホルダーに対しても、意識を高めていくように働きかけをしていく必要があるでしょう。

 企業がサステナビリティというバリューを追求するためには、顧客とステークホルダーの共感と協力が不可欠だからです。すべての企業がその点をしっかりと認識していくことが重要であり、それがビジネスバリューの最も大きなポテンシャルになることでしょう。それは、今はまだかもしれませんが、すぐでしょう。

 

【関連書籍】

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