売上の1%を自然環境の保護、
回復のために寄付する

 具体的にどのようなアクションをしていますか。

 環境に対する不必要な悪影響を抑える取り組みの一つには、1994年に取り組みを始めて96年に完全に達成した、一般的な栽培法によるコットンを使用しないということがあります。あまり知られていませんが、一般のコットン(木綿)の生産は、その過程において、収穫をしやすくするための枯葉剤など、毒性の強い化学薬品を大量に使用しており、土壌や水、空気を汚染し、動物や植物を殺し、農業従事者や繊維製造における工業従事者や、周辺に住む人々の健康を害しています。当社はこのことを知り、オーガニックコットン以外の使用を止めました。

 当社は、環境再生型の農業と畜産も始めました。それは、安全な作物を作るということだけでなく、土壌の健全性を高めることが目的です。有機物と無数の生物が繁殖する健康的な土壌は、大気中の二酸化炭素を地中に取り込み、温室効果ガスを削減します。

 ある科学者の推計によれば、地球上の農業と放牧の4割が再生型の農業や放牧に変われば、空気中の二酸化炭素濃度は300ppmに減ります。これは産業革命がおこる前の数値と同等です。

 製品に関わる動物に対しても、不要な悪影響を与えないかどうかを審査しています。ダウンジャケットの場合、私たちはすべてのフェザーの羽の1本1本まで、どこから来ているかを追跡しています。グースを飼っている農場が、餌をちゃんと与えているか、生きているグースから羽をむしり取っていないかということも確認しています。

 また、工場でパタゴニア製品を作る人に対しても、不必要な悪影響を受けていないかどうか。私たちはフェアトレードという認証制度を導入し、労働者の賃金が、基準を満たしているか、その製品の取引が、公正に行われているかを認証しています。

 私たちの環境に対する取り組みでもう一つ紹介したいものは、「1%フォー・ザ・プラネット」です。

「1%を惑星のために」ですか。それはどのような取り組みでしょうか。

 1985年にパタゴニアが発表したコミットメント(誓約)です。これは、パタゴニアの全売上の1%を、自然環境の保護、回復のために寄付するというものです。利益の何%ではなく、「売上の1%」ということが重要なポイントです。

 つまり、「儲けたからその一部を環境に還元する」のではなく、私たちは利益が出ようが出るまいが、必ず売上の一部を環境のために拠出するということを宣言しているのです。これは当社の定款に書かれていますので、たとえ赤字になったとしても、容易に変更することができません。

 オーガニックコットンやフェアトレードは、原価を上げることに直結しますね。それは資本の論理における利益の追求とは異なる方向です。

 パタゴニアはもちろん、慈善団体ではなく、グローバル経済のなかでビジネスを行っています。つまり、他社とまったく変わらない、資本主義経済のルールに従ってビジネスを行っています。そのなかで私たちは売上の1%を寄付し、サプライチェーンのなかでどの国であろうと、工場で働く労働者には生計が立てられるような賃金を支払っています。

 当社はそうしながら、毎年成長し、2桁台の利益率を出しています。非常に健全であり、財務的にも安定しています。それはつまり、サステナビリティを追求する当社が、顧客に対して、製品の価値に加えて特別なバリュー=価値を創造しているからでしょう。資本主義のなかで私たちのビジネスモデルはきちんと機能しており、そのことを実証しています。

 さらに私たちは、自社のみが環境保護や社会正義に対する活動をするのではなく、他の企業にも影響を与え、企業の行動を変えるような働きかけを行っています。例えば先ほど説明した1%フォー・ザ・プラネットは、パタゴニアが独自に始めた活動ですが、これを地球全体の活動にまで広めようと、2002年に、イヴォン・シュイナードとブルー・リボン・フライズ社のクレイグ・マシュー氏が共同で、非営利団体1%フォー・ザ・プラネットを立ち上げ、企業や個人事業主の参加を募っています。

 これに参加するということは、すべての売上の1%を必ず寄付し続けると約束することになります。リスクがあるこの取り組みに、大企業の参加はまだありませんが、中小企業や、ミュージシャンなど、その数は日を追うごとに増え続け、今ではメンバーは2,000を超えます。これまでの寄付金を合算すれば、1億ドルを超えます。大変な盛り上がりです。そのお金を私たちは、全世界のおよそ820の環境団体に寄付しています。

 1%フォー・ザ・プラネットに参加していることが、サステナビリティに共感する顧客にとって、新たな付加価値となっているということでしょうか。

 その通りです。1%フォー・ザ・プラネットに参加したブランドの商品には、「1%」と書かれたロゴマークを貼り付けることができます。このロゴマークの付加価値は、今後、さらに高まることでしょう。

 思い出すエピソードがあります。私は12年前にパタゴニアの環境担当副社長になり、その時に前任者から引き継いだ案件がありました。それは自動車メーカーのフォード・モーター社との提携案件です。

 当時、最初のハイブリットカーを発売しようとしていたフォードは、その新車のラインナップとして、パタゴニアエディションを売りたいと言ってきていました。前任者はフォードの担当者と、非常に多くのやり取りをしていました。

 ただしパタゴニアには、自動車にパタゴニアの名前を載せるということに全く関心がありませんでした。ただし私はこう考えました。パタゴニアの環境に関するコミットメントを、これまでとはまったく違う人々に対して伝える機会に繋がると。私はイヴォンに「フォードに、ハイブリッドにパタゴニアの名前を載せることをOKしよう」と言いました。するとイヴォンは最初、「何をクレイジーなことを言っているんだ」という顔をしたのです。そこで私は、「その代わり、1%フォー・ザ・プラネットに加入することを条件に提示しよう。全世界のフォードの全車種に1%ロゴを貼って、全世界のフォードの売上の1%を寄付してもらう」と言いました。するとイヴォンはにっこり笑って、「それはいい、進めよう!」と言いました。

 私がフォードにそのことを提案したところ、最初は「そうですね??」というような反応でしたが、この提案に、当時のCEOであったビル・フォードは関心を示しました。しかし役員会では、「そんなことは絶対に無理だ」と却下されてしまいました。というのは、フォード社は他の株式会社と同じように、利益は株主に還元しようというミッションを持っていたからです。

 すべてのフォード車のドアに、1%のステッカーが貼ってあったならば、全世界にフォードのディーラーに並んででも買いたいと言う人が大勢いたかもしれませんね。