では、仕事の本質とは何か

 本書では、佐藤氏のこれまでの仕事――クールミントガムやおいしい牛乳のパッケージデザインはどのようにつくられていったのか、「デザインあ」はどのように生まれたのか、等々――の経過が詳しく明かされており、それを知るのも面白いが、各章で語られる氏の仕事観や価値観がとても興味深い。たとえば、表題作になっている「塑する思考」。外部から力が加わった時に凹んだままでいる「塑性」という性質が、実はデザイン(仕事)において大事だという氏の考えが綴られている。外部から力を受けると元に戻ろうとする弾性的なあり方は、「どんな時にも自分を見失わない」ことに通じ、それがよしとされてきたきらいがある。しかし、仕事においてはそうした弾性はまずいのではないか。デザインという仕事は、個性が求められ自分らしさを押し出したくなるものだが、普遍性が必要な商品にそうした自我は求められていない。仕事の対象、相手、といった外からの力に柔軟に適応できる塑性が大切ではないかというのが氏の考えである。「丸い人間だと思われたら丸い仕事しか頼まれなくなる」のだ。

 そのほかにも、「中央」があるからこそ「際」が「際立つ」のであって、中央がない際などは存在しない、皆が王道である中央ではなく、際(物)ばかり狙ったらどうなるか、という指摘。また、仕事における「とりあえず」は対症療法にすぎず、問題の先送りにすぎない、という意見。あるいは、全ての仕事は「これから」のためにあり、「これから」を想像するところから始まる、という言葉。どの章にも仕事の本質を気づかせてくれる素敵な一言が見つかる。冒頭で哲学書のようなタイトル、と申し上げたが、本書は佐藤氏の「仕事の哲学書」とも読めるのである。