●潮流に逆行した、時代遅れの建築?

 ジョブズの構想は、批評家の多くには理解しにくいようだ。以下は『ワイアード』からの引用である。

「『将来の仕事環境に対応していない、時代遅れのモデルです』。こう述べるのは、カリフォルニア大学バークレー校の都市設計学教授ルイーズ・モジンゴだ」

「『格式張ったデザインの壮大な建物だが、ハイテク業界全体における本社社屋の潮流には逆行している』と述べるのは、スコット・ワイアット。彼はグーグル、アマゾン、テンセントのビルを設計した著名な国際的建築設計企業NBBJの建築家である」

 シリコンバレーとハイテク系スタートアップで求められる現代の優れた職場とは、柔軟性に富みスピードに対応できる空間だ。アップルパークが、それとはきわめて対照的なのは間違いない。だが、ジョブズの構想が将来を考慮していなかったと断言するのは正しくないと思われる。

 将来の仕事には、機械とのより緊密な連携が求められる。だがアップルパークでは、人間の働き手を自然とより緊密に触れ合うよう意図的に配置している。将来の従業員が頼りとするのがAIのインターフェースであれ、テレプレゼンス・ロボットとの協働であれ、拡張現実(AR)によるプロトタイピングであれ、ジョブズの構想においてはどうでもよかった。彼が思い描いたのは、いまから100年後も古びることのない、大聖堂や国立研究所のような不朽の建物なのだ。

 ほとんどのテクノロジー企業は、変化に適応していける仕事空間をつくりたいと考える。予測不能性や急激な変化に対する保険として、当然のことだ。これに対しアップルのキャンパスは、人々に刺激を与えること、時の試練に耐えることを目指している。

 それは保険ではない。スティーブ・ジョブズは保険などほとんど用意したことがなかった。


HBR.ORG原文:Why Apple’s New HQ Is Nothing Like the Rest of Silicon Valley  June 26, 2017

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ジェニファー・マグノルフィ(Jennifer Magnolfi)
ハイテク系の仕事環境の設計を専門とするリサーチ会社、プログラマブル・ハビタッツの創業者。ハーバード大学デザイン大学院卒。