●技術系の職場にまつわる経緯

 このことを背景からとらえるためには、現在および将来の仕事空間構築にまつわる根本的な課題(とりわけハイテク企業にとっての課題)をまず理解することが重要だ。それは、「ソフトウェアと建物は、まったく異なる時間軸で稼働する」という点である。

 ソフトウェアは、IT全般について言えることだが、スピードとアップグレード(絶え間ない、時に抜本的な変更)のために最適化されている。これに対し建物は、変化を嫌い、長年耐えうるように最適化される。だが時間軸が異なるにもかかわらず、不動産企業の幹部にとっての課題は、最高情報責任者(CIO)が直面する課題と何ら変わらない。それは、新たな投資がすぐに陳腐化しないよう万全を期すことだ。

 シリコンバレーは、こうした課題に数十年間取り組んできたが、この地域独自の文化は、企業に競争上の優位性を与えている。20世紀を通してのシリコンバレー興隆の起源は、地理的な近接性と、産(ハイテク企業)・学・官の密接な協働にたどることができる。これは近代の米国史において、最も重要な技術ベンチャーのいくつかを生み出した方程式だ。

 このような協働的な背景に影響を受けた、シリコンバレーの創業者たちが尊重したのは、お互いの近接性、直接顔を合わせてのやり取り、堅苦しくない取引、そして変更可能で非永続的なチーム・組織の構造である。これらの価値観は社屋に反映される。仕事空間の構造を、変化に適応しやすい、あるいはいくぶん永続性の低いものにする設計戦略が採用されてきた。その目指すところは、物理的な職場をソフトウェアの速さで稼働させる、もしくは少しなりともそれに近づけることであった。

 その過程で生まれたのが、オープンフロア(大広間)、充実した設備とサービス、ラフな服装、上下関係ではなく平等を重んじる雰囲気、そして非常に独特な仕事文化である。内部空間がより優れているほど、さまざまな形の空間を通じて、従業員間の遭遇と自然発生的なやり取りが促進される。私および他者の研究によれば、このような遭遇は学び、協働、そして究極的にはイノベーションを促進する。

 しかし2000年代になると、仕事空間、建物、テクノロジー間における時間軸のギャップがさらに急速に広がった。携帯電話やソーシャルメディア、その他の新技術により、企業は短期間で巨大な規模に到達できるようになったためだ。

 歴史の浅い新興ハイテク企業、たとえばエアビーアンドビー、ツイッター、インスタグラム、スナップ、ウィーワークなどは、シリコンバレーの巨大企業とは異なる運営方法を採用している。巨大な顧客基盤を獲得し、驚くほどの市場評価を得る一方で、従業員は比較的少ない。ビジネスモデルは流動的だ。そのスピードと破壊的な規模ゆえに、極度の柔軟性と非永続性を重視する仕事空間を選ぶことが余儀なくされる。加えて、急速な成長に対応できるよう、変更可能な構造も必要だ。

 これらの新たなハイテク系労働力にとって、職場とは設備で築かれた「場所」というよりも、ネットワークで築かれたデジタル協働空間の色合いが強い。若い創業者と働き手は、携帯機器やソーシャルネットワークを通じてコミュニケーションや仕事をしながら育ってきたため、自分自身や自分の仕事をそもそも「モバイル(流動的)」であると受け止めている。このことが仕事空間に対する彼らの期待を方向づけていても、驚くに値しない。

 こうした人々を支持するモデルが、新たに登場しつつある。それは、企業のオフィスが近隣コミュニティの商業施設や公共スペースにあちこち配置されたネットワークだ。働き手は、これらの異なる空間的背景を自由に移動し、同僚や協働者、潜在的なパートナー、その他の都市生活者に出くわす。この都市構造の中で、仕事はいつでも、どこでも生じる。これはまさに、オンラインでのやり取りのありようが反映されたものであり、個人的、社会的、職業的な生活が常に自然につながり合うのだ。

 テクノロジーの急速な変化に向けたこのような対応は、多くの企業における不動産投資の評価方法を考えれば、理にかなっているように思われる。重視されるのはたいてい効率性であり、単位面積当たりのコストと収益性、空き室率、メンテナンス費などが指標となる。

 しかしアップルパークに関して言えば、報じられている50億ドルの投資を算定するのに用いられた指標は、それほど単純ではないようだ。上記の指標、そしておそらくは建物のカテゴリーも、まったく異なる。