●文化を変える運動を主導する方法

 リーダーは社会運動の勢いを変革マネジメントの計画に転換する際、拙速であったり、単純化しすぎたりしてはいけない。とはいえ、運動を巧みに起こす人々の手法から学べることは多い。

 1. 問題を巧みに表現(フレーミング)する

 運動に成功するリーダーは、感情を揺さぶって行動を煽るような言葉で状況を言い表すのが得意だ。このフレーミングは、同調への社会的プレッシャーにも使える。たとえば、「受動喫煙は命を奪う。あなたが人前で喫煙することは、恥ずべき行為」という具合に。

 企業文化を変革する際には、変革の必要性を説くだけでは成果は出ない。切迫感を煽ることは、有効だが長続きしないおそれがある。従業員から全面的かつ継続的なコミットメントを得るには、彼らに変化への切望と責任を感じさせなければならない。そのためにリーダーは、会社の目標に照らして変革を表現するとよい。つまり、「我々の存在意義とは何か」に答えるものである。

 優れた企業目標は、他者への奉仕における卓越の追求を謳う。従業員に個人的な利益を超えた動機を求める。仕事に意義を与え、個人の感情を引き出し、団結を誘発する。プラサドはドクター・レディーズの変革を、「健康に待ったなし」の追求という形で表現した。

 2. 素早い成果を示す

 運動の仕掛け人は、ささやかな成果を祝福することの効果を熟知している。研究によると、成果を示すことは、運動に共感しているが参加するまでに至っていない人々を取り込む方法の1つである。

 企業文化の変革で多くのリーダーが陥りがちな罠は、自分たちが見たいと望む新たな文化を宣言してしまうことだ。それよりも、その文化において望む「行動の具体例」に焦点を当てる必要がある。こうした例は、すでにある程度存在しているものもあれば、新たにつくらなければならない場合もある。

 プラサドと経営陣が複数の主要部門で立ち上げたプロジェクトによって、迅速・イノベーティブ・顧客中心の仕事の有益性が実証された。そして、「健康に待ったなし」の追求がいかに事業成果につながるかも示された。プロジェクトがかなり進行した後でようやく、経営陣はそれらの成果を材料に用いて、企業目標と文化変革の意欲を発表したのだ。

 3. ネットワークを利用する

 有能な運動家は協力体制の構築が非常にうまい。異なるグループをつなぎ、共通の目的を持つより大規模かつ多様なネットワークを形成する。さらに、既存のネットワークを自己の目的のために活性化する方法も心得ている。1960年代の公民権運動のリーダーは、その好例だ。彼らは地域の教会で築かれた強固なつながりを介して、メンバーを取り込んだ。

 ただし、社会的ネットワークが活用できるのは、新たな参加者を募るためだけではない。意図を広めて、成果を喧伝するためにも役立つのだ。

 ドクター・レディーズの企業目標は、経営陣が密室に閉じこもって生み出したわけではない。数ヵ月にわたり、全社ぐるみで従業員がその過程に携わった。このやり方の根底にあった考えは、人はみずからが創出に関わった対象を、より強く後押しする傾向がある、というものだ。そして社を挙げての決起イベントの最中、プラサドは全従業員に対し、「健康に待ったなし」の実現に各自がどう貢献するかを決めて目標とするよう促した。

 4. 安全な避難場所を設ける

 運動家は、メンバーが戦略を立てて作戦会議をするための場を設けたり、探したりするのが得意だ。実例として、公民権運動中の米南部の美容院、1960~70年代のクエーカー教徒の勤労奉仕キャンプ、1980~90年代初頭にセネカで女性たちが集った、平和と正義のためのキャンプなどが挙げられる。これらの場所では、行動規範や活動家としての振る舞いが主流文化のそれとは異なる。それは、運動が目指す将来の縮図なのだ。

 現在の企業における主流の文化と組織構造は、完全に「現在」の行動と結果を生むためにつくられている。結果が望ましいものかどうかにかかわらず、だ。社員に従来と異なる行動をしてもらいたければ、彼らを取り巻く環境を変えることで、新しい行動を後押しするとよい。その行動が既存の主流文化と相反する場合には、なおさらである。

 支店や研究室はしばしば、変革の縮図となる新天地としてつくられる。ドクター・レディーズは2つのイノベーション研究所を設立した。医薬品の未来を模索し、社員が新しい理念を受け入れて新たな行動を起こしやすい場所を築くためだ。

 5. シンボルを活用する

 運動家は、シンボルと衣装をつくり、広めることに長けている。それによって団結心を醸成すると同時に、自分たちが何者で、何に寄って立つのかを外部に示すのだ。団結のシンボルと衣装は、運動における「我々」と「その他の人々」の線引きを明確にする。こうしたシンボルは、一般的な理念を支持するTシャツやバンパー・ステッカー、ボタンなどシンプルなものもあれば、抗議集会などでよく目にする巨大な人形のように手の込んだものもある。

 ドクター・レディーズの場合、文化と目標の変革を、自社の新たなブランド・アイデンティティとリンクさせた(刷新された企業ロゴのハート型は「共感」と「いたわり」を、複数の小さな円は「ダイナミズム」と「機敏性」を、イメージカラーの紫は「創造性」と「英知」を表す)。この方策は、団結とコミットメントというメッセージを社内と外部に強調することになった。目標の追求に向けて、全社が一丸となっている。