キャッチアップ経済では、未分化で良かった

 なぜ、分化していないのでしょうか?

 いくつかの要因がありますが、主因は工業社会の産物だと考えます。「日本企業の職場はムラ社会」と言われることがありますが、この表現は誤りです。ムラのある農村地域は、農家という個人事業主の集団で、皆それぞれ自分のペースで仕事をしています。個人が分化しているからです。がんばった分だけ自分の収入になるので、工夫して仕事をしようとか、一生懸命に働こうというモチベーションが生れます。

 これに対して工業社会、特に途上国などのキャッチアップ経済で、個人の未分化は意味があります。その最適なモデルを、日本は戦後の高度経済成長期に作り上げました。

 当時は、少品種大量生産の工業社会です。同じような考え方や教育レベルにある人材を大量に一カ所に集めて、決まった仕事を一斉にさせるのが、効率が良かったのです。この仕事のやり方では、個性は攪乱要因となるので、抑制する圧力が働いたと考えられます。

 日本の社会風土も寄与しているでしょう。他国に比べて単一民族に近く、生活文化が似た人間構成で、同じような考え方をして、集団主義になりやすい。共同体意識が強く、皆がやるならやると考えがちで、異論を唱えることが少ない国民性は、個人の未分化のほうがうまく回るキャッチアップ経済期にはプラスに働いたのです。

 1980年代頃までは良かったのですね。

 そうです。しかし、イノベーションを起こし、自ら事業や商品を開発していく必要がある今日のポスト工業社会には、個人の未分化状態では対応できないのです。

 個人が分化すると、どうなりますか?

 企業の生産性にかかわる部分で言えば、2つの意味で、モチベーションが上がります。

 1つは、自分がやった分だけ、報酬や昇格機会が増えることによるものです。現状の未分化状態では、部課やグループなどの組織で業績評価されるので、前述の通り、個人でいくら頑張っても、評価に「天井」のような上限がありましたが、分化されれば、評価は青天井になります。

 もう1つは、分化されると、自分の裁量で仕事ができるので、内発的モチベーションが上がります。楽しさや面白さなど、内側から湧き出るモチベーションが向上するのです。これは今日の仕事には強く求められているものです。創造的な仕事や革新的な仕事は、内側から湧き出るやる気がないと、うまくはいかないからです。

 多くの経営者が求めるイノベーションの第一歩はここにあるということでしょうか。

 そうです。現状のような企業文化をつくる日本企業の制度では、イノベーションはなかなか生まれません。

 米国企業のように、社員が自ら創造的なことを考えたり発見したりしたら、それを基にいずれ独立するというような風土がないと、創造性はなかなか発揮できません。そういう風土をつくるベースにあるのが、個人の分化だと思います。

 日本企業の場合、画期的なアイデア創出が、大幅な報酬アップにも、将来の夢にもつながらないし、さらには、そのアイデアを誰が出したのかがはっきりしません。この状態ではイノベーションを起こす革新的アイデアが出てこないのは当然です。