独身女性は単に人前では控えめな傾向がある、という可能性を排除するため、「プラセボ質問」として文章力の自己評価を尋ねる問いを加えておいた。

 文章力は労働市場で評価されるが、結婚市場で不利に作用することもない。独身女性が人前で控えめに振る舞うのであれば、文章力の自己評価も低めになるはずだ。しかし、独身女性は(そして他のすべてのグループも)、「公開」と「プライベート」の両方でこの能力を同等に評価した。これらの結果から、独身女性は、そうでない女性と異なり、たとえキャリアの追求に有利に働くとしても、結婚市場で不利に働く行動は回避する傾向があることがわかる。

 第2の実験は、自分の回答を男性が知ることになると考えている独身女性は、労働市場で不利になり、結婚市場で有利になるような回答をすることを示すものである。

 キャリア・クラスにおいて、174名のMBA学生に対し、3組の仮の仕事条件について選択してもらうよう頼んだ。学生はどちらか好きなほうの仕事を選び、正答はないと伝えられた。また、講義の最後に時間があったら、クラス内で小グループをつくり、回答について議論をすることになる、とも伝えた。グループ分けは毎日変わる。その日は、独身女性の一部が女性だけのグループに割り振られ、残りは男性だけのグループに割り振られていた。回答を記入した用紙は講義の最後に回収すると伝えておいたので、学生はキャリア・センターが回答を見ることになるのも知っていた。仕事の適性について話し合う講義なので、いたって自然な活動であり、これが実験であることを学生は知らなかった。

 全員女性のグループに加わった独身女性のうち68%が、給料が低く週あたりの労働時間が45~50時間の仕事よりも、給料が高く毎週55~60時間働く仕事を選ぶと答えた。それに対し、男性を含むグループに加わった独身女性でそのように回答したのは42%にすぎなかった。同様に、全員女性のグループに加わった独身女性のうち79%が、なかなか出世はできないが出張のない仕事より、早く出世できるが出張の多い仕事を選ぶと答えた。一方、男性を含むグループに加わった独身女性で同様の選択をしたのは37%だけだった。しかも、グループに独身男性がいた場合、独身女性がキャリアを重視する選択肢を選ぶケースが減る傾向があった。社会に貢献できる仕事と、社員が平等な権限を持つ職場での仕事のどちらを選ぶか、という「プラセボ質問」に対する独身女性の回答は、グループ内の学生の性別によって変わることがなかった。

 最後に、学生を対象にアンケート調査を行い、講義の参加態度を分析した。調査では、上記と同じ初年度のMBA学生261名に対し、以前働いていたとき、「野心的、独断的、または強引すぎる」と思われたくないために、キャリアの追求に役立つと思われる行動を回避したことがあるか、と尋ねた。そうした理由で昇給や昇進の要求を控えたと回答した学生の割合は、独身女性の場合64%、既婚または恋人がいる女性の場合39%、男性は27%だった。また、ミーティングであまり発言しないようにしたと答えた学生の割合は、独身女性の過半数、独身でない女性と男性では30%だった。

 筆者らが講義への参加態度を分析したところ、未婚の女子学生は、既婚女性と比べ、参加態度の評価が大幅に低いことがわかった。講義での参加態度は他の学生に見られるため、学生の意欲や主張の強さが伝わってしまう可能性がある。筆者らが予想したとおり、男性の参加態度への評価は既婚・未婚間で違いは見られなかった。

 我々が行った他の多数の分析からも、独身女性とそうでない女性の行動がこのように異なるのは、結婚市場に関わる懸念が原因になっている可能性が高く、独身女性とそうでない女性固有の相違によるものではないことがうかがえる。たとえば、未婚女性が既婚女性と比べて全般的に学生として劣っているということはない。いずれのグループも、試験や問題集での(クラスメートが知ることができない)成績はほぼ同じである。同様に、クラスメートに回答を知らせない場合は、好みや技能に関する女性の回答が未婚か既婚かによって変わることはなかった。

 こうした知見を総合すると、独身女性は結婚を意識するがゆえに、キャリア追求に役立つ行動を控える傾向があること、そして、そうした考慮は、労働市場における性差の一因となっている可能性があることがうかがえる。高校で高等数学を選択するとか、エンジニアリングを専攻するとか、起業家になるといった、学校教育や最初の職業選択に関する決断は、人生の比較的早い段階で行われる。そのとき、ほとんどの女性は独身である。こうした決断は、労働市場において長期にわたる影響を持つだろう。

 以上の結果を他の状況に当てはめて推測を行うのは本稿の範囲を超えているが、MBAプログラムにいるエリート女性は選ばれたグループであり、一般女性と比べてキャリアの追求に高い価値を置いているはずである。したがって、他の状況においては、結婚市場を考慮した行動の影響がさらに強いと考えられる。

 今後、結婚を意識することが女性のキャリアに与える悪影響を軽減する対策への研究が待たれる。


HBR.ORG原文:The Ambition-Marriage Trade-Off Too Many Single Women Face, May 08, 2017.

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レナード・ブルシュタイン(Leonardo Bursztyn)
シカゴ大学経済学助教授。全米経済研究所のファカルティ・リサーチフェロー。

トマス・フジワラ (Thomas Fujiwara)
プリントン大学経済学助教授。全米経済研究所のファカルティ・リサーチフェロー。カナダ先端研究機構のアソシエートフェロー。

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ハーバード大学経済学のポール・サック准教授。政治経済社会研究。全米経済研究所のファカルティ・リサーチフェロー。