「三方よし」は
ウィンの文化にも当てはまる

 植物と土壌の例え話に戻ると、普通の経営者はいい土壌を探して、そこでビジネスを始めようとしますが、土壌づくりから始めるのが、あなたのやり方なのですね。

 成功者に恵まれた特権の一つは、他者の成功を助ける機会を得られることです。

 ペンシルバニア大学の学生だった頃、私は宗教学を学びました。キリスト教だけでなく、ユダヤ教、イスラム教、ヒンドゥー教や仏教など、東西の宗教を広く学んだのです。

 仏教では、真の幸福は他者の人生をよりよいものにしたことの満足感によって訪れると説いています。

 長く生きていると、それが真実だということがよくわかります。誰かの人生をよりよくできれば、あなた個人の幸せを実感できます。

 それを若い頃に学び、仕事を通じて実感してきた私にとって、土壌づくりから始めるのは、ごく自然なことなのです。

 従業員の幸せの最大化が、ゲストの満足の最大化につながり、その循環によって地域社会の発展に貢献できる。そういうあなたの考え方は、日本に古くからある「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)という商人哲学と相通じるものがあります。

 その言葉は初めて聞きましたが、まさに我が社の文化に当てはまるものだと思います。

 ウィン・リゾーツの企業理念の根本にあるのは、「人を幸せにできるのは、人だけ」という考え方です。人が人を幸せにしていれば、結果として「三方よし」のビジネスになるのではないでしょうか。

 あなたにとってビジネスは、人を幸せにするための一つの手段ということですか。

 事後的にはそういえるかもしれません。でも、正直に告白すれば、リゾートをデザインするのは私の生きがいであり、情熱です。私は新しいリゾートをつくり続けたい。次こそは最高のものができるはずだ、いつもそう考えています。それに挑戦することが、私自身の幸せにつながっているのです。

 挑戦を続けるためには、成功しなくてはなりません。成功するための最善の道を探し続けた結果、「人を幸せにできるのは、人だけ」という考え方にたどり着きました。ですから、私自身の幸せの追求という利己主義から始まっているのです。

 正直なお答えですね。

 私は75歳ですし、十分に成功しました。いまさら取り繕う必要はありません。

 どの施設でも、あなたはゲストの期待を超えた環境やサービスを提供しています。顧客が本当に望んでいることは、顧客に聞いてもわからないものですが、あなたはどうやってそれを見つけ出しているのですか。

 一番大事なのは、「人を幸せにできるのは、人だけ」ということです。どんなに豪華で快適な建物や環境があったとしても、ゲストを幸せにできる従業員がいなくては、期待を超えるサービスを提供することはできません。

 それが大前提ですが、素晴らしい従業員と快適な環境、その両方があればあなたは最高のリゾートを運営することができるでしょう。

 物理的な環境について言えば、人は生まれながらにして自然の美しさを愛し、自然の中にいると命の力や解放感を感じることができます。

 生命を育む3つの大きな力は、太陽のエネルギー、水、そして酸素を生み出す植物です。私がリゾート施設を設計する時には、この3つの力を適切に活用することを考えます。建物の中であっても、自然の光を取り入れ、鮮やかな色を使い、池やプール、川の流れを配し、あちこちに植物を植えます。

 自然の美しさと生命の力をリゾートに取り入れること。それが、少なくともこの49年間はうまくいきました。

 でも、忘れないでください。たとえ建物がベストでも、素晴らしい従業員がいなければ、それはウィン・リゾーツではありません。両方が揃ってこそ、世界最高のリゾートであり、私たちはそうなれるようにトライしているのです。

IR施設は誰にでも建てられる
だが、目的地となるリゾートは別

 2019年に「ウィン・ボストン・ハーバー」を開業する予定ですが、この施設によってボストン地域をどのような街に変えたいと考えておられますか。

 カジノを許可する法改正までして、マサチューセッツ州政府がリゾート施設を誘致したのは、地域振興と雇用創出、そして州外から観光客を増やすためです。その期待に応えられる規模と魅力を持った施設を開発します。

 また、地域に開かれ、街全体の魅力を高めるような施設にする必要もあります。

 私たちが選んだ立地は、ボストン中心部からも国際空港からも近い港湾地区にある、古い工業地帯の一部です。非常にアクセスはいい場所ですが、化学工場による土壌汚染があり、地元の人たちが立ち入ることはありませんでした。

 私たちは土壌を浄化し、海沿いには遊歩道と大規模な公園を整備し、レストランや小売店も集めて、地域住民の憩いの場となるウォーターフロント開発を行います。空港とリゾート施設を結ぶ水上タクシーを運航し、地元の人たちも利用できるようにします。

 プロジェクトの総投資額は24億ドルで、マサチューセッツ州史上、最大規模の民間開発です。新規の直接雇用は約4000人、州で第3位の雇用主となります。

 地元自治体のエバレット市は、私たちの施設を受け入れるかどうか住民投票を行いました。その結果、86%が賛成票でした。期待の高さをひしひしと感じます。

 私たちはエバレットの人たちに、「この街を美しくします」と約束しました。その約束をきちんと果たしたいと思っています。

 もし、あなたが日本に進出するとしたら、どんな新しい風を持ち込みますか。

 IR施設は資金さえあれば、誰でも建てることができます。それができる企業は、日本にもいくつもあるはずです。わざわざ海外から企業を呼んで、建ててもらう必要はありません。

 ただ、街全体の魅力を底上げし、海外の人たちが飛行機に乗ってはるばるやってくる目的地となるようなリゾートとなると、話は別です。

 現時点で私が言えることは、ウィン・リゾーツはゲストが驚くほどの素晴らしいサービスを提供できる従業員たちによって運営され、地域社会とともに繁栄してきた実績があるということです。

 そして、私が49年間のリゾート運営の中から学んだ、「人を幸せにするのは、人だけ」という理念は、どんな産業にも当てはまり、国による違いもないということです。