そのためには、初等教育レベルでは、問題解決を促す練習を重視することや、チームで協力して取り組む方法を教えることが必要になる。幸いなことに、K-8レベル、つまり幼稚園から中学2年生までのレベルでは、探求型学習やプロジェクト型学習に多くの関心が寄せられている。ただし、このアプローチを実践している学校区がいくつあるかを把握するのは難しい。

 倫理もまた、あらゆる教育レベルで、もっと注目されるべきだろう。AIテクノロジーは常に、倫理的ジレンマに直面している。たとえば、人種的・民族的・性的偏見を自動決定からどのように除外すべきか。自動運転の場合は、乗車している人の命と歩行者の命の間でどのようにバランスを取るのか。このような意思決定プロセスに対して、深く考え抜いた貢献のできる人材やプログラマーが必要だ。

 初等教育レベルでコーディングを教えることが最重要課題ではないと、我々は考えている。子どもたちがコーディング学習を楽しみ、Snap!Scratchといったプログラミング言語が役立つ場合は、教えるのもよい。だが、コーディングは教育の後期課程でも習得できる。

 とはいえ、プログラミング学習がまったく必要ないと考えるのは見当違いだ。世界中でデジタル化が進み、コンピュータサイエンスはいまや、作文や算数と同じくらい、文系でも理系でも必須科目だ。コンピュータサイエンスの専門家になる道を選択するか否かにかかわらず、コーディングを習得すれば、選択する分野が何であれ、仕事の幅を広げる助けになるだろう。そういうわけで我々は、コンピュータプログラミング基礎コースを中学3年生レベルで必修にすべきだと考えている。

 全米で現在プログラミングを教えている学校の割合は約40%にすぎず、その質と熱心さに関しては、ばらつきが大きい。コンピュータサイエンスのアドバンスト・プレースメント(AP、高校生を対象とした大学レベルのカリキュラムを提供するプログラム)試験を受ける生徒の数は、飛躍的に増加している。とはいえ、「APコンピュータサイエンスA 」の昨年の受験者数は5万8,000人と、「AP微積分学AB」の受験者数30万8,000人に比べると、まだ見劣りがする米国の州の3分の1は、コンピュータサイエンス・コースを高校の卒業所要単位に含めてさえいない。

 米国は他の先進国に比べ、著しく遅れている。イスラエルはコンピュータサイエンスを大学入学前準備カリキュラムに組み入れた。英国は最近、「コンピューティング・アット・スクール(CAS)」プログラムを導入し、すばらしい進歩を遂げた。ドイツとロシアも躍進している。2016年の一般教書演説で、当時のオバマ米大統領が発表した「コンピュータサイエンス・フォー・オール(Computer Science For All)」イニシアティブは、遅ればせながら正しい方向への一歩だった。だが、トランプ政権が予算削減を提案するなか、このイニシアティブは頓挫するおそれがある。

 高校レベルでコンピュータサイエンスを拡充すれば、生徒のためになるだけではない。より多くの、より多様なタイプの生徒に、コンピュータサイエンスをキャリアとして検討するように働きかけることになり、コンピュータサイエンス分野の強化にもつながるはずだ。

 昨年の秋、カーネギーメロン大学スクール・オブ・コンピュータサイエンスの新入生のほぼ半数が女性であったことに、我々は感激した。とはいえ、コンピュータサイエンス分野はいまだに、女性やマイノリティの数を増やすことに苦労している。インテリジェンスをシステム化していくタスクや、遍在する広大なデータから洞察を得るタスクでは、働き手の多様性が切実に求められている。

 また一方、成果を上げるには、プログラミングを教える方法を一新することも必須だ。現状では、1990年代と同じようにプログラミングを教えている場合があまりにも多い。90年代といえば、まだコーディングの詳細がコンピュータサイエンスの中核と考えられていた時代だ(Visual Basicを思い出してほしい)。プログラミング言語を駆使してコツコツと取り組むことができれば、何かを学ぶとは思うが、長くつらい作業であることに変わりない。それは、本来あるべき学習の姿ではない。

 コーディングは創造性に富んだ活動なのだから、楽しくてワクワクするプログラミング・コースをつくることは、きわめて実行可能である。たとえば、ニューヨーク市では、ガールスカウトが女子生徒にJavaSript を使ってビデオの作成・改良を教えるプログラムを用意している。これは楽しくて、しかも生活に密着しているから、子どもたちがかねてから望んでいる活動といえる。学校もこの例にならっていいのではないか。

 中学3年生以上のレベルでは、ロボット工学、計量数学、コンピュータアートといった選択科目を提供して、コンピュータサイエンスの専門家になることに関心と才能のある生徒を、あるいは他の分野での仕事能力の向上のためにコンピュータを必要とする生徒を育成すべきだろう。

 現状では、「APコンピュータサイエンスA 」試験に備えるために必要な、中核トレーニング以上の内容に踏み込んでいる高校はほとんどない。ただし、少数ながら見事な成功を収めている実例もある。たとえば、ニューヨーク市にあるスタイヴェサント・ハイスクールや、バージニア州アレクサンドリアにあるトーマス・ジェファーソン・ハイスクール・フォー・サイエンス・アンド・テクノロジー、ダラスのスクール・フォー・ザ・タレンテッド・アンド・ギフテッド(TAG)はその顕著な例だ。これらの学校はすべて、コンピュータサイエンスのコース修了者か、トレーニングを受けた熱心な教職員を擁することを誇りにしている。

 我々はまた、高校の数学科に対して、高等微積分学などの連続関数を重視する姿勢を改め、コンピュータサイエンスに直接関わる数学、たとえば統計や確率、グラフ理論、ロジックをより重視するように勧める。これらは将来のデータ駆動型の働き手にとって最も役立つスキルになるだろう。

 大きな障害は、現在の米国の学校現場ではコンピュータサイエンスのトレーニングを受けた教員が著しく不足していることだ。これについては全米のテクノロジー企業が大きな助けになりうるだろう。たとえばマイクロソフトがスポンサーになっているTEALS(Technology Education and Literacy in Schools)プログラムでは、週に数時間、コンピュータのプロフェッショナルと高校の教員がペアを組んで授業をする。

 だが何百万人もの生徒を教えるには、何千人もの教育者が必要だ。今後はこれまでにも増して大きなコミットメントが必要になるだろう。教育機関の側では、テキサス大学オースティン校が考案したUTeachプログラムが、STEM (Science[科学]、Technology[技術]、Engineering[工学]、Mathematics[数学])の教員を養成するモデルとなり、現在では21州とワシントンD.C.にある計44大学がこのプログラムを実施するまでに拡大した。

 やるべきことはまだ他にもたくさんある。理科と数学と同様に、幼稚園から高校3年生向けコンピュータサイエンス教育を推進する政府基準が必要である。また、これと並行して教科書やコースの作成、そして最終的には政府基準に従って高度のトレーニングを受けたコンピュータサイエンス教員の一団も必要だ。コンピュータサイエンス教育者協会(Computer Science Teachers Association)は、この分野のリーダーであり、基準の枠組みと一連の暫定的基準を公布している。

 次世代を担う子どもたちがどのようにビッグデータやAIを理解して触れ合うべきかを考え、その教育に投資することは、長期的にはすべての人に利益をもたらす投資になるだろう。


HBR.ORG原文 How to Prepare the Next Generation for Jobs in the AI Economy, June 05, 2017

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デイビッド・コスビー(David Kosbie)
カーネギーメロン大学スクール・オブ・コンピュータサイエンスの准ティーチングプロフェッサー。

アンドリュー W. ムーア(Andrew W. Moore)
カーネギーメロン大学スクール・オブ・コンピュータサイエンスのディーン(学長)。

マーク・シュテーリク(Mark Stehlik)
カーネギーメロン大学スクール・オブ・コンピュータサイエンスのディーン(学長)補佐。アウトリーチ活動を担当。