この概念は、工業時代型の企業のリーダーには理解しづらい。ネットワーク効果を高めるために短期的な儲けを先延ばしにし続けるなど、どうすればできるのか。いったい、いつになったら実際に利益が出るのか――。

 しかし、スティッキネスが高まる限り、これは妥当な戦略なのだ。着実な収穫逓増が見込めるのであれば、利益回収を将来に先送りすれば、その正味現在価値は際限なく大きくなる。現在のAWSは、アマゾンの長期志向の下で価値を大幅に高めている。フェイスブックもグーグルもしかり、同様の例は枚挙にいとまがない。

 コリソンが企業に薦めるのは、「短期利益のためにすぐ実行できるが、顧客やエコシステムにとって格別なメリットのないアイデア」を、リストにして保留しておくことだ。これらの保留事項を「来年の戦略」と呼ぶべきだと言う。なぜ「来年の戦略」なのか。答えは至ってシンプルだ。

 顧客に関する豊富なデータとインサイトを持つ企業は、それらの資産を収益化したければいつでもできる。しかし、顧客が当該製品にもっと投資してからのほうが、収益化はより簡単になり、より大きな利益を得られるのだ。

 まずは今日の投資によって、エコシステムの構築、その価値の実証、ネットワーク効果の促進、顧客ロイヤリティの構築を目指す。製品の追加投入と、それに伴う限界収穫逓減の影響については、その後で考えても遅くない。

 しかし、大半の企業はそのようには考えない。というより、考えることができない。

 ほとんどの企業には、「いま、この日」に利益を最大化せよと求める投資家基盤がついているからだ。将来もっと利益を得るために、いますぐ儲かる活動を辛抱強く先送りする、ということを投資家たちは許そうとしない。これこそ、工業時代型企業のマネジャーの行動を決定づけている非常に大きな要因なのだ。

 かたや新興企業は、利益の出ない成長をよしとする投資家基盤と経営陣を確保できれば、既存の競合を将来的に弱体化させるための短期投資を優先できる。

 デジタル変革の戦略を推進するCEOならば、こうした工業時代からの変化に対する理解は欠かせない。企業はどのアイデアを「来年の戦略」として保留すべきかがわかれば、長期的な成果(顧客やエコシステムへの大きなメリット)をもたらす活動に、いまできる投資を集中させることができる。収穫逓増を生むためのロードマップが行き詰まった場合でも、投入する資本がある限り、リーダーは保留事項に手を出さずに済むだろう。

 とはいえ、これは危険な挑戦でもある。「来年の戦略」を文字どおり来年に先送りすれば、必然的に短期利益は上がらず、投資家が怒って反旗を翻すおそれがある。その一方で、本稿で述べた視点を無視して、従来型の投資家と合意したルール(短期利益の最大化)どおりに行動すれば、10年後に成果が現れる活動に十分な投資ができず、狙いが定まらなくなる。

 したがって、短期的に損するリスクを取らねばならない。さもないと、ほぼ間違いなく長期的に損することになる。今日のビジネス界で大変革を遂げた企業は、総じて前者を選択している。

 とはいえ、これは容易な道ではないし、決して確実な道でもないのだが。


HBR.ORG原文:Why Some Digital Companies Should Delay Profitability for as Long as They Can  May 04, 2017

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マックスウェル・ウェッセル(Maxwell Wessel)
SAP.iOのゼネラルマネジャー。スタンフォード大学ビジネススクール講師。ネクストジェン・ベンチャー・パートナーズの投資家。

アーロン・レビー(Aaron Levie)
急成長中のクラウドソフトウェアベンダー、ボックスの共同創設者兼CEO。

 

ロバート・シーゲル(Robert Siegel)
スタンフォード大学ビジネススクールの経営学講師。エクシード・キャピタルのパートナー。