組織の構成

 本連載でも書いてきたように、現在の「ほぼ日」の組織のあり方は環境構築にコストがかかっている。まったく同じ形式のままで規模を拡大するのは難しいだろう。特にコミュニケーション経路の高い自由度と密度は、小規模だからこそ可能になっている側面がある。

 今後、事業拡大に際して社員も増えていくと予想されるが、そうなれば、ある程度小さなまとまりごとに独立性を高めるほうが、全体の見通しはつきやすくなるだろう。たとえば、「ほぼ日刊イトイ新聞」やイベントや商品販売を行う実店舗「TOBICHI」、犬猫のSNSである「ドコノコ」などのサービスごとに異なる部署として一定程度の独立性を与え、分化させていくのではないか。

 これらは、それぞれウェブ、イベントスペース兼店舗、ソーシャル・ネットワーキング・サービスと、スケールの仕方や速度、望ましい階層の多少や分業の度合いも異なってくる。全体で「動機」や「雑談」といった共通項を保ちつつも、サービスごとにある程度仕組みを変えていくのではないだろうか。

 喩えれば連邦制のような体制だが、その場合、州同士をどのように効果的につないでいくのかは、興味深い課題になりそうだ。「ほぼ日」らしい分化と連携の試みを期待したい。

方法の限界について

 最後に、調査で取られた方法とそれによる限界について付記しておきたい。

 まずインタビューであれ、参与観察であれ、一人の人間が組織の内部に入ってさまざまな物事を見聞きすることで、被インタビュー者からの反応や態度に影響を与える。調査者自身がその影響を完全になくすことはできない。それは第一に調査者が自身の社会的地位や所属、年齢、性別などから自由になれない、第二に特定の問題関心を持つことで、その準拠点からこそ見えること、見えないことを出現させてしまう、という必然性に起因している。

 前者はわかりやすいだろう。後者に関して言えば、筆者の関心は「企画を事業の中心とする組織で、どのように社員個々人の自由度を保ちつつ組織化していくのか」「カリスマ的な人物がトップにいる組織が、どのようにトップの影響を弱め、組織の制度を整えていくのか」という点にあった。この点が糸井氏や組織化に関わった社員の、この10年間あまりの苦闘と関心とに合致していたのは幸運であったかもしれないが、それと同時に記述を偏ったものにもしているだろう。

「ほぼ日」はその事業のアウトプットも、社内の様子も、結構な量の情報がウェブ上に公開されている。上場後は、さらに表に出てくる情報は増えた。関心のある論点は、調べて確かめてみてほしい。事例としてはすでに戦略論の文脈で複数紹介もされているし、今後は他の研究者が異なる関心や方法で調査することもあるかもしれない。

 私自身これからも考え続けていきたいテーマと対象であるが、それと同時に多角的な視点からも明らかにされるといいと思う。

調査にあたって、社員のみなさまより広く暖かい協力を賜りました。筆者のどんな質問にも気軽に応えていただき、ときには調査自体を「面白がって」くださり、打ち合わせやインタビューの後、さらに1時間を超える立ち話にも付き合っていただくことも多くありました。深く感謝申し上げます。